第62話
「今度から大事なことは先に言ってくれよ……」
「いや~すまんすまん! すっかり言い忘れてしまっていた!」
ルガータの家にお邪魔すると思いのほか綺麗に掃除されていた。
「随分と綺麗だが、嫁さんでもいるのか?」
「あぁこれはだね――」
突然扉が開かれると顔と腕にたくさんの包帯を巻きローブを着込んだティーナよりも小さい少女が立っていた。
「ちょうどいい、入っておいで。お客さんを紹介するよ」
「……」
フードを深くかぶり顔を隠した少女は何も言わずそのまま扉を閉める。
「あららっ、恥ずかしかったのかなぁ」
「今の子は……あんたの娘?」
「違う違う、私は一人身だからね。いつだったからかここに居着いたんだ。僕が研究に熱中してる間何かと家のことをやってくれてね。本当に助かってるよ」
いやいや、猫じゃないんだから……。誘拐から逃げてきた子供だったらどうすんだよ。
「親御さんがどこかで探しているかもしれないぞ」
「両親はすでにいないらしくてね。役所に言ったらあの子の希望もあって親代わりに預かってる形なんだ。機嫌がいいときなんかは適当な会話をしてくれるけど、最近はどうも機会が減っちゃってさ」
「あの包帯は怪我でもしたのか?」
「いや、初めてあったときからしていて、本人曰く治らない病気らしくてね。今は落ち着いてるけど薬は効かないからって、医者も勧めてみたんだけど聞かないんだ」
あんなに隠すほどなら痛みはなくとも気に障ることがあるはず……。特に、あの年頃の女の子となれば尚更だろう。
「俺の薬なら治せるかもしれない、明日にでも診させてもらっていいかな」
「僕はいいけど彼女が許さないと思うよ~。あぁ見えてかなり頑固だからね」
「頑固といえばリッツ様もなかなかですよね」
「……ニエも人のこと言えないと思うが」
「ははは、君たちは新婚旅行でここに来たのかい?」
「はい!」
「違うから。……訳あって丈夫な服を探してるんだ。鎧じゃなくて、そういうの詳しい人とかいないかな?」
未知の草よりまずそっちだったよ。忘れてたわ……。
「ん〜それなら町にいる仕立て屋に聞いてみるといい。僕の知り合いだから紹介するよ。ただ今からだと遅くなっちゃうから、今日のところは泊まって明日にしたらどうだい?」
あの少女のことも気になるし今日は世話になるとするか。
「それじゃお言葉に甘えてそうさせてもらうよ」
そして翌朝早く、俺たちは少女がいつもいるという山頂へ向かった。
「ねぇ君、その腕、みせてもらえないかな」
「……」
少女は大きな岩に座り景色を眺めたまま微動だにしない。
「俺は君を助けたいだけなんだ。治したらすぐに消えるよ」
「……これは怪我じゃない、誰にも治せない」
「だったら尚更だ。俺がきっと治してみせるから!」
無言だった少女は立ち上がるとこちらを睨んだ。
「お前たちはそうやってあのときも…………。守護者になった程度でいい気になるなよ?」
こいつ、アンジェロのことを知っている!?
咄嗟に俺はニエを庇うように立つ。
「お前は何者だ!?」
「私に勝つことができれば教えてやる」
少女は目の前から消えるとニエの横に着地した。
消えた!? ……いや、跳んだのか! 速すぎて見えなかったぞ……。
「ニコニコと、一族のお前は傍観しているだけか?」
「あなたではリッツ様を止めることはできません、試してみるといいでしょう」
「ワン!」
アンジェロが大きくなり少女を抑えようとするが、少女は瞬時に跳んで移動する。
……やはり見えない、となれば考えられるのは――。
「おい、ニエには手を出すな。さすがに俺だって守らなきゃいけないものがあるんだ」
「ほう、大した自信じゃないか」
少女は怪しい笑みを浮かべると包帯を外した。
あの腕――まさか穢れか!?
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