第61話
長かった船旅が終わり大地に降り立つ。まだ揺れている気もするが何かの間違いだろう。
「しかし、これはすごいな……」
船から見たときは【カルサス】より山が多いくらいにしか思っていなかったが、実際こうして島に降りてみると目の前が緑一色だ。秋が近いため場所によってはすでに紅葉が広がっていたが、それでも密度が違う。
隆起した大地は険しい岩肌を見せており、来る者を拒絶しているようにもみえる。
「リッツ様、あれはなんでしょうか?」
ニエが遠くにある山を指す。
「ん~? 何も見えないが」
「あ、落ちました」
ニエには何かが見えていたらしいが、鳥が飛んでいたりとまったく見分けがつかない。
「ワフッ!」
「え、お前も見えてたの?」
どんだけ目がいいの君たち……。
「せっかくだから見に行ってみよう。遅かれ早かれ森には入る予定だったしな」
森に入りアンジェロに乗ると目的地目指し突き進む。野生の勘なのかアンジェロは迷うことなく、山を登っていった。
「リッツ様、この辺りですね」
道らしいものは一切なく、俺たちがいること自体が不釣り合いな場所でアンジェロは止まった。
「お~い、そこの人たち!」
「……?」
声がしたため俺はニエとアンジェロを見るが二人はこちらを見ていた。
「こっちだよ、こっち~!」
上を見ると男性が木の枝にぶら下がっている……というか引っかかっていた。
「ちょっと身動きがとれなくてさ~、すまないが降ろしてもらえないかなぁ?」
木から降ろすと男性はぼさぼさになった髪を掻きながら乱れた服を直した。
「いや~助かったよ。君たち、この辺じゃ見かけない服装だね。もしかして外から来た?」
「あぁ、さっき着いたばかりなんだがこの辺で何かが落ちるのをみてな。来て見ればこの通り、あんたが木に引っ掛かってたわけだ」
「こりゃあ幸運だ! 僕はルガータ、君たちが来てくれなきゃまた一人で寂しい夜を迎えるところだったよ」
「またって……前もこうなったのか?」
「いや~お恥ずかしいんだがこれで五度目くらいかな? ちょっとした実験をしていてね、君たちはなぜここへ? えーっと……」
「俺はリッツ、彼女はニエで――」
ニエの横で大きいアンジェロが小さくなる。
「……こいつはアンジェロ、たまにでかくなったりする」
「こりゃあすごい! 外にはこんな生き物までいるのか!」
ルガータはアンジェロを見て大喜びしていた。
いてたまるか……この人は少し変わっているのかもしれないな。
「そうだ、助けてもらったお礼に家に来なよ。見てもらいたいものがあるんだ」
「それじゃあ宿もまだだしお邪魔させてもらうよ」
「歓迎するよ。あ、その前に……あれはどこにいったかな――」
ルガータは何かを探し森に入っていくと細長い板のようなものを持って戻ってくる。何か見たこともない装置が付いているが用途はまったく想像がつかない。
「それじゃ案内するよ」
◇
ルガータが持っていた板を俺が変わりに持ち、後ろをニエとアンジェロがついてくる。
山をしばらく登ると木造の家が現れ、隣にある大きな小屋は扉が開けっぱなしになっており、中にはルガータが見つけてきた板に似たようなものがいくつも置いてあった。
「はぁ……はぁ……ちょっと待ってくれ……君たち、体力凄いねぇ……」
遅れてルガータが到着すると膝に手をつく。アンジェロときたニエは息一つ切らしていない。
「ニエって結構体力あるんだな」
「リッツ様がどこへ行こうと遅れるわけにはいきませんから」
その執念をもう少し自分のことに役立ててもいいと思うんだが。
「ふぅ~ありがとう、もう大丈夫だ」
ルガータは立ち上がると小屋に向かった。
「なぁ、この板っていったい何なんだ?」
「よく聞いてくれたね! これは今研究中の『エアライド』といって、空を自由自在に飛ぶことができるアーティファクトなんだ!」
「……そのわりには落ちてたようだが」
「まだ課題はいくつか残っていてね、それさえうまくいけばきっと完成するはずさ」
「ふーん……俺も乗ってみていいか?」
「お、君も試してみたくなったかい! いかにコントロールが難しいか体験してみるといい。僕が落ちたのも頷けるからね」
俺はルガータが小屋から持ってきた板を借りる。
「足の前面にあるのが浮遊装置、後ろが加速調整だ。離せばそのままブレーキになるからやってみるといい」
俺はルガータが説明した通り板の前にあるスイッチを踏むと板に入っていた模様が光出す。
「おっ、おぉ!」
板が浮き上がると今度は後ろのスイッチを少し踏み込んでみる。
「おわぁ!?」
身体を踏ん張るとどんどん加速して空を飛んでいく。
こりゃあ楽しい!
「お~やるじゃないか! リッツ君、いい感じだぞ!」
「ルガータさん、リッツ様を見る限り問題なさそうに見えますが課題というのは?」
「あぁ、乗りこなすのが難しいというのが一つと、もう一つが――」
急に俺の乗っていた板が揺れ始める。
「燃費が悪すぎるんだよ」
「うわああああぁぁぁっ……!」
力を失くした板と一緒に俺は木の上に落下した。
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