第60話 閑話:『教会の紅い騎士』

「おくすりはいりませんかー」


「温かいブレンド茶もご用意しております。いかがでしょうかー」


 子供たちが商品の並んだ机を前に声掛けをしている。少し離れた後ろではシスターと、紅い鎧に身を包んだ騎士が見守っていた。


「……あの、いつもお忙しそうなのにすいません」


「…………いえ」


 二人の間に沈黙が訪れる。


「ありがとうございます! えっと、おつりはー……」


 子供がお婆さんの対応をしてると後ろを馬車が通り過ぎていく。


「お、おい? どうした!?」


 突如馬が暴れ始めると商人が落ち着かせようとするが走り出す。


「だ、誰か止めてくれぇぇええええ!!」


 騎士は風のように走り出すと馬に飛び乗る。


「大丈夫、落ち着いて」


 徐々に馬が落ち着いていき、騎士が馬の脚を見ると何かの破片が刺さっていた。


「少し痛いが我慢してくれ」


 それを抜くと、騎士は子供たちの下にいきラッピングされた薬草を一つ取り硬貨を渡す。


「……一つもらうよ」


「あ、ありがとう――ございます?」


 騎士は馬車へ戻ると商人へ薬草を差し出した。


「どうやら足にガラスが刺さったようだ。これで治療してやってくれ」


「お、おう……ありがとよ……」


 商人というのは恩を大切にする。本来であればここでお礼の一つも言うはずだが、彼は目の前を去って行く異様な騎士に圧倒されていた。


 ざわつく周りを気にせず、騎士が戻ってくると女の子が走り寄った。


「お、おつりです」


「……少し多いようだね。もう一度ゆっくり数えてごらん」


「ひとつ、ふたつ、みっつ――あれ?」


 重なっていた硬貨がずれると女の子はもう一度数え直した。


「ひとつおおかった!」


「ふふ、そうだね。落ち着いてやれば大丈夫だから頑張ろう」


 お釣りを受け取ると騎士はシスターの隣に何事もなかったかのように戻ってきた。


「あ、あっという間でしたね……」


「…………いえ」


 二人は子供たちを見守ったまま会話を続ける。


「どうしてすぐわかったんですか?」


「…………馬車が後ろを通ったとき、馬が足元を気にしたんです」


「え、あんな一瞬でそんなことまで!?」


 驚くシスターをよそに騎士は子供たちを見たままだった。またしばらく無言が続くとシスターは子供たちに近づいた。


「さぁ、そろそろ時間です。片付けを始めましょう」


「はーい!」


 シスターと子供たちが片付けてる間、騎士は脇目も振らずそれを見守っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る