第63話
肉腫が生えたその腕は赤茶色に変色していた。少女はフードを取り顔の包帯を外すと真っ黒な髪に、顔には黒い痣があった。
「これがなんだかわかるか。お前たちが求め欲したものだ! 治せるというのであれば治してみるがいい!!」
「………………」
「どうした怖気づいたか!?」
その顔立ちは単なる空似だったかもしれない。しかし、俺の脳裏に遠い記憶が鮮烈に蘇る。
「――絶対に……今度こそ俺が助ける!!」
俺は鞄から世界樹の葉を取り出し口に放り込んだ。
「守護者よ! 威勢だけで仲間を護れると思ったら大間違いだぞ!」
肉腫が鋭利な棘のようになると少女は消えニエの横に着地する。
「――終わりだ、一族の生き残りよ!」
「させるぁぁああああああッ!!」
俺は振り下ろされた肉腫を殴ると爆散した。
「……な、なんだとッ!?」
少女は一瞬目を逸らしたかと思うと消え、移動すると肉腫は徐々に再生を始める。
やはりそういうことか、ならば――。
「アンジェロ、合わせろ!」
俺は一瞬のうちに間合いを詰めると少女は消えたが、その先に俺はすでに動いていた。
「何ッ――」
俺が少女の体を拘束するとアンジェロが遠吠えをする。
「ぐううぅ……ああああぁぁぁっ!!」
暴れた肉腫を引きちぎり地面に叩き潰すと光を帯びて消えていく。
「はぁ……はぁ……貴様、いったい何を、うぐッ!?」
少し強引だがこうでもしなければ飲んでくれないだろう……すまんが我慢してくれ……。
俺は無理やり少女の口にエリクサーを突っ込みある程度飲んだのを確認すると外す。
「げほっげほっ!」
少女を見ていると体が淡い光に包まれ、腕が治ると同時に綺麗な肌色になっていく。
「こ、これは……」
「手荒な真似をして悪かったな」
「い、痛くない……そんな、治るはずがないのに……!」
少女は何度も自分の腕を確認するが、俺は少女の顔に残った痣をみていた。
この痣……アンジェロと同じものだ。確かあの少年にもあった……。
「ニエ、これは呪いとみていいか?」
「はい、間違いなく呪いを受けているとみていいでしょう」
こればかりはティーナにお願いするしかないか……。
「すまないが顔の痣だけはここじゃ治せない。一緒に来てもらえるか」
「いや、これは治ることはないから気にするな。それよりも何を飲ませた? なぜ……絶対に治ることがないと言われた病が治っている?」
「とっておきの回復薬を飲ませた、治すって約束したからな」
「……ま、まさか――エリクサーじゃないだろうな!?」
えっ、知ってたの……。なんだよ隠そうと思ったのに。
「正解、おかげで調子はいいだろ?」
「本当にあったなんて……ど、どこで手に入れた! あいつらの言ったことは嘘じゃなかったとでもいうのか!?」
少女は慌てた様子で俺に掴み掛かってくる。
「落ち着け、これは自分で作ったんだよ」
「作った……だと……?」
「あぁ。ていうかあいつらって誰のことだ」
「話せば長くなる……。それよりなぜ私を助けた? お前の連れを殺そうとしたんだぞ」
「あんたには微塵も殺気がなかったからな。もしあの後、ニエを殺そうと思っていたとしても最初のあんたは間違いなく助けを求めていた。それに…………いや、なんでもない」
「そうか……」
沈黙を破ったのはルガータが俺たちを呼ぶ声だった。
「私はリヤン、詳しくはまたあとで話そう」
少女がそういうと姿を見せたルガータに歩いていく。
「いたいた。遅いから何かあったのかと心配したよ――って、その腕は治ったのかい!? リッツ君、すごいじゃないか! この子は諦めてたっていうのに僕はとても嬉しいよ!」
「あ、あぁ……リヤンは素直でいい子だったぞ」
「名前まで教えてもらったのかい!? 僕は何年も掛かったっていうのに!」
リヤンを見ると知らないフリをして歩いていく。
こ、こいつ……なんつう猫かぶり……。
「リッツ様、一件落着ですね!」
「ワフッ」
あれ、おかしいな。問題が増えた気がするのは俺だけ?
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