第133話

 食事が終わると少女はすぐに眠ってしまった。


 よほど疲れていたんだろう。


 俺たちは一度船に戻ることにした。


「師匠、戻りました」


「早かったわね」


 師匠は俺が背負っている少女に気付くとアルフレッドさんをみた。


「生存者は一人、ほかには死体が一つで村全体に争った形跡はなかった」


「子供に怪我は?」


「お腹が空いていたようだが無傷だ。魔物に襲われたのか賊でもきたか、どちらにしても普通ではないな」


 船に乗り込み少女を寝かせるとリヤンがやってくる。


「ちょっと待って、その子も連れて行く気?」


「置いていくわけにもいかないだろ」


「問題というのは起こるのが当たり前なの。そうやっていちいち人を助けてたら、いつか足元をすくわれるわよ」


「それくらい知ってる。だけど目の前で困ってる人くらいは少しでも救いたいんだ」


「リッツの言う通りよ、ここまで来てしまったら仕方ないわ。もうすぐ日も暮れるし今日はここで休みましょう」


「……まったく、私はあなたの心配をしてるのよ」


「それはありがたく受け取っておくよ。無理をいって悪いな」


 リヤンだって本心で言ってるわけじゃないのはわかる。


 聖域に近づくほど魔物は狂暴になり、人が住めるような安全な場所はなくなっていく。


 万が一があれば少女よりもティーナの身を優先しなければならない。



 野営の準備が終わる頃、少女は目を覚ました。


「あ、起きた? 痛いところとかない?」


 少女は首を横に振る。


 特に外傷もないし大丈夫みたいだな。


 ティーナがやってくると少女の横に座った。


「こんにちは、私はティーナ。あなたのお名前は?」


「ルル……」


「ルルちゃん、夕食ができるまで少しお姉ちゃんとお話しよ!」


 こういうのはティーナのほうが得意そうだな。


 今のうちに野営の準備を手伝ってこよう。





「ルルちゃん、もし言いたくなかったら言わなくていいけど、あの村で何があったのか教えてくれない?」


「……魔物がでたの。危ないから隠れてろって……」


「村の人たちはどこに?」


「わかんない……」


「そっか。疲れてるだろうし今日はもう遅いから休みましょう」


「あなたはこっちよ。ついて来て」


 リヤンがルルを連れて行くと師匠はウムトをみた。


「で、何かわかった?」


「はい、あの子は穢れを持っています。どういう訳か、今はなんともないようですが」


「だったら早く浄化してあげないと!」


「落ち着きなさい。村で何があったのかを見極めるのが先よ。アル、どう思う?」


「魔物が出たといっていたがそれにしては気配がないな。すでに倒しているなら生き残りがいてもいいはずだ」


「やはり現状だけじゃ謎が多いわね……。憶測は混乱を生むから、まずは明日あの子の穢れを浄化して聖域に向かいましょう」


「一度どこかの町に置いてきた方がいいんじゃないですか?」


「引き取り手なんて早々見つからないからね、下手に時間をかけてしまうならこのまま連れてったほうがいいわ」


 その夜、警戒はしたが問題はなく、翌日の朝を迎えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る