第80話
まだ外は暗く陽が昇る前、トレードマークの紅い服を身に纏った『紅蓮の風』が屋敷の前に整列していた。その横で立っている俺に、ニエの頭が当たっては離れてを繰り返している。
「おい、無理そうなら寝てていいんだぞ」
「だいひょうふれす……しゅこしこのまま……」
ニエは寝ぐせの立った頭を俺にくっつけ寝始めた。
立ったまま寝るのってかなり難しいはずなんだが……。仕方ない、あとで少し寝かせよう。
何かを話していた師匠とウェッジさんが前に並ぶ。
「今日から三日間、この国では収穫祭が始まる。我々はこの国を守る勇敢な兵と共に警備にあたることになった。各々の持ち場は先日説明した通り、各自、下見は済んでいるな?」
全員が頷くとウェッジさんが一歩出る。
「いいか、この国は俺たちが来る前に色々と問題が起きている。解決したとはいえ国民の不安は消え去ってはいない。『紅蓮の風』の存在をアピールするチャンスだと思え!」
「おう!!!!」
全員が短く応えると街と村を見に行っていたリヤンがアンジェロに乗り戻ってくる。
「おかえり、様子はどうだった?」
「――特に異常はなかったわ。少し周辺も探ってみたけど人の気配や匂いはなかったから、とりあえずは開催まで問題ないんじゃないかしら」
「わかった、ありがとう」
ニエの体を支えながら二人に礼を言うと師匠に目で合図した。
「聞いた通りだ、もし敵が来るのであれば開催中か終わりを狙ってくる可能性が高くなった。各自しっかり備えてから持ち場へ向かうように! 散開!!」
団員が動き出すと残された俺たちの下に師匠がやってくる。
「もう少し屋敷でゆっくりしてからでも大丈夫そうね」
「この様子だとニエはどこでも寝れると思いますよ……」
「リッツよ、だからと言ってそのままでいるわけにもいかないだろう。まったく邪魔なら邪魔といえばいいものを――」
リヤンは溜め息をつくと腰に手を当て俺をみた。
「それじゃ、あとはリヤンに頼もうかな」
「あ、あくまでニエが側にいたいのはリッツだからな! 私は今からアンジェロと少し休む、あとは頼んだぞ!」
アンジェロに声を掛けるとリヤンは逃げるように屋敷へ入る。俺はニエを抱きかかえベッドに寝かせた。
◇
すでに日も昇り、居間でハリスと共に香草茶を飲んでいるとニエが入ってくる。
「リッツ様、ハリスさん、おはようございます!」
「ニエ様、おはようございます。お体の調子はいかがですかな?」
「はい! リッツ様に運んで頂いたおかげですっかりこの通り!」
寝ぐせはきちんと直され、ニエはいつもの笑顔を俺に向けた。
「単に朝が弱いだけだろ……」
ニエが元気に俺の隣に座るとハリスが香草茶を出す。
「そういえばハリスは収穫祭をみたことある?」
「私は一度だけございます。各村から多くの作物を持ち寄り品質や大きさを競い、最後は豊作を祝い皆様でお食べになるとか。様々な催し事が開催されますが、貴族から村人まで全員が参加することができるので、この国が平和である理由の一つともいえるのかもしれませんな」
「へ~なんだかんだ結構重要な祭りなんだな」
「しかし、本当によろしいのですか? 皆様が警備に向かわれるなか、私一人がファーデン家の方々とご一緒させてもらってしまって」
「屋敷に人なんてこないし貴重品は全部しまったからね。それにティーナやエレナさんだけじゃなく、ファーデン家のみんなからのお誘いだ。ここはお言葉に甘えて楽しんできたほうが失礼にもならないだろ」
「主が仕事で執事が祭りにいくなど、私の長い人生でも聞いたことがありませんぞ」
「はははっ! 俺たちだって中のほうの警備を任されてるから祭りを楽しむことはできるんだ。遠慮せずに楽しんできてくれ」
しばらく談笑しているとリヤンとアンジェロもやってくる。俺は香草茶を飲み干すと立ち上がった。
「どれ、そろそろ――いいか、何度も言うが何か異常があればまず俺に知らせるんだ。リヤンも外では子供だ、祭りで気が昂った大人は何をしでかすかわからない、アンジェロとは絶対に離れるなよ」
「子供扱いするなといいたいが、お主たちに迷惑をかけるわけにはいかないからな。アンジェロ、よろしく頼むぞ」
「ワフッ!」
「騒ぎが起きた場合、ハリスはファーデン家にいてくれ」
「かしこまりました」
「それじゃ全員、俺が渡した薬は持ってるな?」
全員が頷く――俺たちは色とりどりに飾られた街へと向かった。
――――読者様へ――――
長らくお読みいただきありがとうございます!
試行錯誤しながら楽しめるように模索中のため、
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