第69話 ミレイユサイド

 修練場に様々な武器が並べられ、ユリウスはウェッジを前に槍を構えていた。


「実戦を経験して剣との違いがわかったか?」


「は、はい。槍だと安心するというか……剣では頼りなく感じてしまうのがわかります」


「頼りないと感じた距離がお前の持つ危険範囲だ、逆にいえばそこから外は慌てず冷静に処理できる。まずはその範囲を知りどう動くかを学べ」


「はい、わかりました!」


 ウェッジが石を飛ばすとそれをユリウスは叩き落とす。しばらく鍛錬を続けるとあっという間にユリウスはボロボロになりその場に倒れた。


「槍に振り回されちまってるなぁ。まぁ剣から急にじゃ仕方ねぇか」


「はぁはぁはぁ……あ、あの、質問してよろしいでしょうか?」


「あぁ、なんだ?」


 ユリウスは息を整えるとその場に座りウェッジをみた。


「ミレイユさんやリッツさんが、武器を持たずに戦っているのはなぜなんでしょうか」


「それは――ちょうどいい、本人に聞いてみな」


 ウェッジが鍛錬場の脇に目をやると『紅蓮の風』の団員たちが倒れており、ミレイユがこちらに向かってきていた。


「どうだ、こっちのほうは」


「ユリウスが団長に聞きてぇことがあるってよ」


「ん? どうした」


 ミレイユに見られたユリウスは咄嗟に姿勢を正した。


「あの、ミレイユさんやリッツさんは武器を持ちませんが何か理由があるのでしょうか」


「ふむ……君の範囲は槍か。疲れているところすまないが構えてくれ」


「は、はい!」


 ユリウスはすぐに立ち上がり槍を構える。


「まず、すべての武器には強みと弱点がある。例えば今構えている槍、私に対してその位置から攻撃を仕掛けることができるわけだが、逆に欠点といえばここだ」


 ミレイユはユリウスが槍を持つ手の位置までくる。


「ここならば槍でなく剣のほうが対処がしやすいだろう。もちろん、そういった弱点を克服するための技もあるわけだが今は置いておいてくれ。次に攻撃となりうる箇所だ。槍は主に先端だが、剣は刀身全てが攻撃範囲となる。これにより武器ごとで得意な範囲と有効な距離の違いがあるのはわかるな?」


「はい!」


 ユリウスは真剣な眼差しでミレイユをみたまま何度も頷く。


「それでは素手の場合だが――ウェッジ、こい」


「あいよ」


 ウェッジが動いた瞬間、石がミレイユ目掛けて飛ぶとそれは軌道を変えユリウスの足の間にめり込んだ。


「ッ!?」


「このように相手から投擲されたものはそのまま利用することができる。そして槍や剣の類は大小限らず持ち手を狙えば無力化されてしまうのに対し、体術であれば触れる場所全てが攻撃範囲だ」


「た、確かにそうですがあまりにも危険すぎませんか?」


「そのために鍛錬と実戦を積み重ねるのだ。今は心許なくみえる武器もいずれは強さというのがわかるようになる。そうして初めて自分が極めるべき武器というのを知ることができるというわけだ、君も頑張れよ」


「わ、わかりました。ありがとうございます!」


 丁寧にお辞儀をするユリウスにミレイユは激励の言葉を投げ、青ざめる団員たちの下に戻っていった。


「やる気が出たところで一つだけ忠告しておく。憧れがあるのかもしれんがリッツだけは別物だと思え。才能だとかそういうことじゃない、あいつは元から普通じゃないからな」


「普通じゃない?」


 ユリウスが聞き返すとウェッジは言い過ぎたとばかりに咳払いをする。


「さて、団長に優しいお言葉をもらえたんだ。もう少し厳しくしてもいいよな?」


「ま、まだ休憩が……あぎゃーーーーーー!!」


 鍛錬を終えると『紅蓮の風』とユリウスの絆はまた少し縮まったという。

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