第68話
「待ってたわ、どっちから着替える?」
仕立て屋の店主が目を輝かせて迫ってくる。あれから数日、俺たちは草探しのため山とルガータの家を往復していると服が完成したと知らせがあり町に来ていた。
「別にどっちでもいいんだが」
「私の中でもこれほどの物を作る機会はそうそうないんだ、もう少し盛り上げてくれよ」
「そんなこと言われても……それじゃあ先にニエのほうを見てみるか」
奥の部屋に入ると綺麗に片づけてあり、中央に仕切り用の板が準備されていた。
ニエが店主に連れられ奥に行くと板で目隠しをする。
「それじゃ服を脱いで――あら~やっぱりスタイルいいのねぇ~。もう少し出るとこ出るようにしたほうが彼も喜んだかしら?」
「リッツ様は最近私を見ても反応が薄いですからね、いっそ……」
「おい、余計なことを言ってないで早く着替えろ」
リヤンが意味深な表情で俺をみる。
「なんだよ、ニエがどんな奴かお前も知ってるだろ」
先日、ルガータが仕上げの手伝いで呼ばれ俺たちだけで家に泊まったのだが、隙ありとみたニエが部屋に侵入し布団に入ってきた――まではいつも通りだったが、俺が先に起きたため外で体を動かしていると、俺を起こそうと入ってきたリヤンが寝ぼけたニエに捕まり抱き枕代わりにされたらしい。
「リッツはいつもあんなことをされているのか……」
「俺はまだないぞ。よっぽどリヤンの抱き心地がよかったんじゃないのか」
是非ともそのまま気に入られてくれ。
リヤンが思い出して肩を落としていると店主が出てくる。
「よし、それじゃお披露目といくよ」
仕切りがずらされていくと白地に霧のような黒い模様、そして以前あった柄は赤色で残され変わった印象のニエが立っていた。
「リッツ様、どうでしょうか」
「前の服の特徴も残してあるし動きやすさも申し分なさそうだな。前より生地の薄い部分が少し気になるところだが――」
「そんな細かいことを……一言綺麗だと言ってやればいいだろうに……」
「動きやすさを取るとそうするしかなかったのよ。耐久性に関しては前の服より数段上がっているから安心して。出ないより出てたほうがあなたも嬉しいでしょ?」
安全を取るなら仕方ないか……変な輩に絡まれないかだけ心配だな。ニエ、頑張って見せなくていいから。
「さて、それじゃあ次は俺の番だな」
店主が仕切りをすると服を持ってきた。
手触りがまったく別物の服だが着替えてみると内側はサラサラとしていて動きやすい。
「さ、次は皆さんお待ちかね、私の渾身作よ!」
仕切りが外されみんなの視線が集まる。
「リッツ様、素敵です!」
「こりゃあまるで聖人だねぇ」
リヤンが怪しい言葉を口にしたが、俺の服はニエとは逆に黒地に白い模様、そして依然と変わったのは大きく描かれた神獣の姿と草花だった。
「立派な服だったみたいだから刺繍も直させてもらったよ。久しぶりにいい仕事をさせてもらったお礼さ!」
店主は自慢気にバンバンと俺の背中を叩いた。
「それはありがたいなぁ~っ」
どうすんだよこれ……黒地なのに前より目立つじゃないか……。
「それとあんたが言ってた打撃についてだけど、服に強烈な衝撃が起きた場合、内側にくる衝撃を和らげて外へ跳ね返す効果があるわ」
「カウンターみたいなもんか?」
「正確には殴ったり蹴ったりすると更に強い衝撃を生み出す。逆にあなた自身への衝撃は和らげられるから――要は攻めるカウンターってところかしらね」
カウンターが攻めてくるって敵からしたら意味がわからなそうだが、凄いということだけはわかったぞ。
「ちなみにどのくらいの衝撃でそれは発動するんだ? アンジェロやニエがぶつかってきたりして大怪我でもしたら困るからな」
「相当な力を与えない限りは大丈夫よ。刃物であれば線や点に力が集中するからすぐだけど、打撃のような面であれば木が折れるくらいの衝撃でなければ起きないから。もちろん指先だけとか特殊な状況じゃなければね」
「それじゃあ木が折れる速度で突っ込んでこない限りは安心ということだな」
「これでリッツ様も遠慮なく私たちを受け止めることができますね」
その前に突っ込んでこないように努力してくれ……。
新たな服を手に入れた俺たちはルガータの家に戻ることにした。
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