第73話
ハリスさんに仕事を丸投げ――もとい採用試験を始めてから数日――リヤンとの約束を済ませ街から帰ってくると、教会から俺宛に四角い封書が届いていた。
なにこれ、めっちゃ重いんだけど……。
封を解くと大量の報告書が出てくる。
「えぇっと、労働内容による賃金の差と暫定で集まった人数……こっちはその内訳か」
律儀に力仕事のできそうな少年と細かい作業の得意そうな少女まで分けられている。
「リッツ様、あまりよくわかりませんがなんだか凄そうですね」
「あのご老体、相当な者のようだな」
リヤンが感心するように声を漏らす。
ん-これは俺たちだけじゃ判断のしようがないな……。
「ちょっと今から出掛けてくるがニエはついて――くるとして、リヤンはどうする?」
「私はこのまま部屋でゆっくりとパフェの余韻に浸ってるとするよ。こんなときくらい頭は使いたくないからね」
「ははは、それもそうだな。それじゃ行ってくる」
俺たちはアンジェロに乗りファーデン家に向かった。
◇
「お待たせ致しました。それで私に御用というのは?」
「急に時間を作ってもらってすみません。さっそくなんですがこれを見てもらえますか」
封書を渡すとバトラさんは丁寧に何枚か紙を取り出し目を通した。
「……ふむ、これは仕事の雇用についてですね」
「はい。実は――」
俺は経緯を話すとバトラさんは紙に目を戻す。
「なるほど、もし本当にこれを一人でやられたというのであれば相当な手練れですな」
バトラさんも納得の仕事っぷりということは、ひとまずこれで安心だろう。
「それじゃあこのまま雇用しても問題はないですね」
「むしろ、なぜこのような者が貴族に仕えずいたのかが心配なのですが……」
「実はその人、ティーナがいたレブラント家の執事だったんです。色々ありまして、扱いが酷いみたいだったので勧誘してみたんです」
「ほ~ティーナお嬢様の……ならば納得です。お付きのエレナ殿が他の使用人よりも抜きん出ておりまして、もしかするとその者に指導を受けていたのかもしれませんな」
バトラさんは納得したように何度か頷いた。
「あ、このことは俺たちだけの秘密でお願いします。たぶん、レブラント家にいたときは色々としがらみがあったと思うし、そういうのがない状態でゆっくり会ってほしいんです」
俺が封書を鞄にしまっているとそれをバトラさんはジッと見ていた。
「……リッツさんは、本当に聖人のようですね」
「ははは、よしてください。俺は好きなようにさせてもらっているだけで、こうしてバトラさんやみんなの助けがなければ何もできませんよ」
「リッツ様、今日はご一緒に寝ましょう!」
「急に何を言い出すんだ……大人しくなったと思ったのに……」
最近わかったことがある。ニエは使命という理由から俺にくっ付いてくるが、夜に関してはたぶん、寂しいから潜り込んできてるのではないかと――あくまで俺の予想だが、その理由にリヤンとニエを同じベッドに寝させると俺のベッドにこないのだ!
まぁ、代わりにリヤンの呻き声が聞こえてくるのだが。
「ほっほっほ、ニエ殿は素晴らしい殿方を見つけられましたな」
「はい!」
このままではニエが何を言い出すかわからないため俺は自分の屋敷に戻ることにした。
ハリスさんへは明日にでも合格を伝えるとしよう。
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