第104話
――俺は城にいた。もうさすがにわかっているだろうがお呼び出しだ、しかも今回は朝一番から。
さすがにウムトと神獣を連れてくるわけにはいかなかったから家でリヤンと一緒に留守場をしてもらっている。
隣に座ったニエがお茶を啜り一息つけると、暇だというようにアンジェロが欠伸をした。
「…………」
「……シリウス?」
目の前のシリウスは死んだ魚のような眼で俺をジッと見ていた。
いつもなら問い詰めてくるはずだがいったいどうしたんだろう……。
「リッツ、聞いてくれ。シルエが私以上に仕事ができるみたいなんだ。それってさ、私より王に向いてるんじゃないのか? そう思わない?」
「シリウス? な、何を言ってるんだ」
「私はな、シルエに無茶をしないように言ったんだ。それなのに報告を聞いたらどうだ? 【ヴェーダ】の本拠地にいって【エナミナル】で国を救って王様とこれからの友好の話をまとめて……もうさ、私は要らなくないか?」
「シルエはシリウスのためを思って動いたんだよ。心配する気持ちは分かるが少しは信じてあげたらどうだ? 詳しくはわからないが部下を信じて待つってのも王の役目だろ?」
「…………そうだよな。シルエや国の民のためにも私がしっかりしないと……」
シリウスは深く溜め息をするとお茶に口を付けた。
「ふぅ……それで、お前のことだ。ほかにも何かあったんだろう?」
「リヤンの兄と会ったんだよ。ウムトって言って今は俺のところに住んでる」
「そいつは以前、お前を殺しかけた少年だったろ。大丈夫なのか」
「今は性格が変わったように落ち着いてるよ。国落としをしようなんて考えてたとは思えないくらいだ」
「……はっ?」
「シルエから聞いてない? ウムトは【エナミナル】を滅ぼそうとしてたんだよ」
「ちょっと待て。つまりそのウムトってやつは聖人のお前を殺そうとしたあげく、国家を沈めようとして今はお前の屋敷に居候中と?」
「あぁ、神獣もいるぞ。真っ黒で賢いんだ。アンジェロみたいに小さくなれないから連れてくるのは一苦労すると思うけど……あ、もちろん神獣も不死だから――」
気づけばシリウスは歯を食いしばりわなわなと震えていた。
「不死というのは聞いていたからまだいいとしよう。それよりも、あろうことか国家を潰そうとした人間を連れて来ただと? しかも神獣付き……それで、【エナミナル】の王はなんと言っていたのだ? ただごとじゃなかっただろう?」
「それは大丈夫だ、王様には魔物の暴走だっていっといた」
どこかでブチッという音がした(ような気がする)とシリウスがニッコリと笑った。
「お前は王を騙してあろうことか主犯を連れて帰ったわけだ。それがどれほど重大なことかわかっとらんようだな」
「あっ――いや、ほら! 犠牲者は一人もでてないし、不死だからといって下手に情報を漏らせば困るかなーって……」
「それをどうして一番の責任者である王に言わんのだあああああああ!!」
「今言ったじゃん! ほら、シリウスは王だし気軽に話せてちょうどいい――うおッ!?」
空になったカップと皿が飛んでくると割れないようにキャッチした。
「これ高いやつだろ、割れたらどうすんだよ!」
「そうやって両手が塞がれば私の悩みの重大さを理解してくれるか? できないよな!?」
「は、はははっ……ニエ、そろそろおいとましようか」
「リッツ様、今日は朝から来てるので長くなっても大丈夫です。時間はたっぷりあります!」
「お前の伴侶は物分かりがよくて助かる。さぁゆっくりと話をしようじゃないか」
◇
や、やっと解放された……。
街は明かりが灯され、城を出た俺たちに夜の訪れを知らせていた。
「はぁ……疲れた……。もうこんなに暗くなってるし」
「いよいよ日の沈みも早くなってきましたね」
「前に言ったような気もするけど雪が降る前に色々準備しなきゃな」
「畑も教会の方で見てくれてはいますが、残ってる部分もそろそろ手を付けたいですね」
「もういっそのこと雪に備えてハウスを建てるか。そうすれば雪の間も薬草を育てられるし教会へ卸す分の供給も安定するだろう」
「それなら子供たちも安心して作業できますね。それに、草の上に座って雪を見ながらお茶を飲む――なんてこともできそうです」
「そりゃあいいな。ほかにも色々ありそうだ、せっかくだから夕飯ついでに街を見てくか」
「久しぶりのデートですね!」
どちらかといえばシリウスの説教を耐えた自分へのご褒美だけどな。
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