第103話

「火急の用だと聞いたが……。『紅蓮の風』まで揃って何事だ?」


「オズワルド王、申し訳ないが人払いをお願いしたい」


 シリウスの姿をしたシルエが言うと事情を察した王様は兵を外に待機させた。


 シルエは事の発端から【ヴェーダ】の壊滅、残党を追ったところで魔物の暴走が起き、あの場で戦ってくれた小隊の協力によって事なきを得た――と説明した。


 だって不死の人がやりましたなんていっても絶対ろくなことにならないし。


 小隊には極々稀に起きる魔物の連鎖反応だったと師匠からのありがたい一言で納得してもらった。


 まぁ、なんだかんだいっても彼らは命を賭けて戦ってくれたのだ。王様からはたっぷりと報酬を貰って頂こう。もちろん、貴族たちの職場放棄もしっかり伝えておくが。


「ふぅむ……一度ならず二度、いや三度目になるか。こうしてお主たちに助けられるとはな」


「今や何が起こるかわからぬ時代、我が王もこれを機に【エナミナル】との関係を更に深いものにしたいとお考えだ」


「確かに【ブレーオア】の現状がわからぬ今【カルサス】との関係を見直してもよいかもしれん、事が落ち着き次第すぐに使者を出そう」


 細かい話が終わると俺たちは船に戻った。


「リッツ様おかえりなさい!」


「ワフッ!」


「彼の様子はどう?」


「徐々に昔のことを思い出してるようですが、詳しいことは屋敷に戻ってからにしようと」


「それがいいだろうな。どれ、とっとと帰って休むとしよう」


 船に乗るとみんなが揃っているのを確認する。ウムトと神獣は静かに座っていた。


 リヤンもだったが穢れがなくなると人が変わったように落ち着くな……。本来の性格に戻るといったほうがいいのかもしれない。


「リッツ、私が先にシリウス様へ報告しておく。後日呼び出しあるだろうから来てくれ」


「……今回は色々あったし師匠のほうがいいんじゃないかな」


「私は【ブレーオア】の内情を探る必要があるからいけないわよ」


 師匠は妙に畏まっている神獣を嬉しそうにもふもふしている。上下関係がすでにできているようだ。


 俺は壁に寄りかかっていたウェッジさんに目をやった。


「ウェッジさん、暇ですよね?」


「アホ、団長やお前ならまだしも一般人がそう易々と王様に会っていいわけないだろ」


「そ、そんなぁ……っ」


 シルエにできるだけ説明をしておいてくれと頼み俺たちは屋敷に帰った。――そして、さっそく問題が発生した。


「なぜだリヤン! 昔はいつも一緒に寝ていただろう!?」


「兄さん、それは昔の話! 私たちはもう大人なの!」


「お、大人だって……!? 会わないうちにいったいどうしちゃったんだ」


「だからその話はあとでゆっくり――」


 ただでさえニエと俺が一緒の部屋で『紅蓮の風』には一部、相部屋でお願いしている状況だ。そこにウムトと神獣が加われば、すでに部屋が足りていないのは明白だった。


「仕方ない、ここは男同士、ウムトは俺と同じ部屋にしよう。君もそれでいい?」


 真っ黒な神獣に声をかけるとジッと俺をみたまま頷いた。隣ではアンジェロがウロウロしており、触ろうとしたりスンスンと鼻を近づけて落ち着きがない。


 アンジェロがわんぱくだとするとこっちはクールだな。


「この子は名前とかないのか」


「本来、守護者とは神獣に選ばれる側なの、だから名前を付けることなどしなかったわ。意志も伝わるし、どれかわからないなんてこともないからね」


 リヤンが説明するとウムトは俺とアンジェロをみた。


「リッツさんは神獣に名を付けているようですが大丈夫なのですか?」


「本人も喜んでるみたいだし別にいいかなって。それにアンジェロを拾ったときは神獣のことなんて全然知らなかったんだ。小さかったのがこの大きさに変わったときは驚いたけどね。ほら、アンジェロ戻ってみて」


「ワフッ」


 アンジェロが元の大きさに戻り駆け寄ってくると抱き上げる。


 前よりちょっと重いな。太っ……いや、成長したんだろう。


「こんなことができるんですか!?」


「その子もできるんじゃないのか」


 視線が集まった神獣は無理だと言わんばかりに首を横に振った。


「神獣は浄化以外にも、それぞれの守護者に合わせて成長するって言われてるし、個体によるのかもしれないわね」


「なるほど、もしかして名前を付けたおかげとか……そんな訳ないか」


 みんなでアンジェロとウムトの神獣を見ているとハリスがやってくる。


「リッツ様、私の部屋を空けますのでお使い頂いて構いません」


「ハリス、ありがたいがこれはこっちの都合だから気にしないでいいよ。むしろ色々と手を焼かせるかもしれないけど協力を頼む」


「かしこまりました。それでは部屋の割り当てはいかがなさいますか?」


「そうだな……ニエ、悪いがウムトの部屋ができるまでリヤンと一緒の部屋でお願いできるか?」


「なっ!?」


 驚くリヤンとは逆にニエは笑顔でしっかり頷いた。


「リッツ様のお願いならば仕方ありません。リヤンさん、しばしの間、一緒に寝ましょう!」


「ぬぅっ……し、仕方あるまい。リッツ、私が言えた身じゃないが部屋の確保を急いでくれ」


「あぁ、すまないがそれまで我慢してくれ。さてと、今日の夕飯はどうしたもんかなぁ」


 ファーデン家のように使用人が多ければ問題ないんだが、今までハリスとニエがメインで夕飯の支度をしてくれていたからな……。


 悩んでいると師匠とウェッジさんがやってくる。


「リッツ、俺たちは街に残ってくれた連中と一杯やってくるから気にしないでくれ。つうかそれくらいしてやらねぇと後が恐ぇからな」


「ということで私たちのことは気にしないで大丈夫よ。元々自分たちのことはできるんだから、あなたの負担にはならないわ」


 師匠とウェッジさんはそう言い残し街へ出掛けていった。


 もう少し使用人を雇うべきかなぁ……みんなとご飯が食べれれば楽しいだろうし。


「食事であれば私も手伝うぞ。積もり積もった恩を少しづつでも返さねばな」


「そう言ってもらえると助かるよ。それじゃハリスとニエも一緒に食事の支度を頼む」


「リヤンさん、一緒に頑張りましょうね!」


「これでもルガータの面倒をみてたからな。私の腕をみるがいい!」


「リヤン、いつの間に料理ができるようになったんだ!? 昔は僕が作ってあげてたのに!」


 ニエたちの方はいざとなればハリスもいるし大丈夫だろう。


「よし、そうと決まればウムト、俺たちは風呂の準備だ!」


「風呂? リッツさんの屋敷にはお風呂があるんですか?」


「あぁ、形はどうあれ最近は簡単に入れる時代なんだ。君もせっかくだから綺麗にしよう」


 真っ黒な神獣は小さいアンジェロ相手に片手で遊びながら頷き、地面を転がり遊んでいるアンジェロは帰ってくる前よりも汚れていた。


 こいつも洗おう……。

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