第140話

 穢れは本来、神獣の浄化でなければ消すことができない。


 今まで俺や師匠が穢れをどうにかできていたのはエリクシールの力で弱まっていたからだ。


 今は時間が経つにつれ穢れが徐々に力を増しているというのがわかる、だからこそまずはエリクシールを復活させなければいけなかった。


 だがニエの前に立つあの男は手に持った短剣で穢れを消した。


「見届け人が出てきてはダメだよ」


「ッ……ゴードンさん!」


「おやっ、新手ですか。まぁ今更一人増えたところでどうってことはないですがね」


 ゴードンさんって確かニエが旅してる途中に会った……なんでこんなところに……しかし男前だな。


「割り込んですまないがちょっと時間をもらうよ。そこの君、しばらく彼女ニエを通してみせてもらった。これを使うといい」


「これは手甲?」


 修行をしているとき師匠に教えてもらったことがある。


 防具に頼ってしまうのが癖にならないようにって、結局使うことはなかったけどな。


「君の力になりたいと頼まれてね。使ってやってくれ」


 誰からだろう。


 手甲を付けてみると薄っすらと光が灯る。


 この気配はあのときの……。


 アンジェロの親の魂だったのか、それとも神獣のご先祖様が導いてくれたのかはわからないが、森で感じたやつだ。


「現世の守護者は相当に愛されているようだな」


「まさかゴードンさんもニエやウムトと同じ一族なんですか?」


「もっと古い人間さ。私は君に機会チャンスを与えにきた」


 そういうとゴードンさんはエリクシールの根がある場所へ向かう。


「――種子生成――」


「そ、それは!?」


 スキルは人の数だけあるというがまさか種を作るスキル持ちとは……。


 そしてこのタイミングといい、この人は何をどこまで知っている……。


「私が手を貸すのはここまでだ。検討を祈ってるよ」


 ゴードンさんは俺にエリクシールの種を渡す。


 男は一心不乱にそれをみていた。


「おおぉっ……それがあれば私は今以上に力を得られる! なんという僥倖か!」


「勘違いするな。これは世界を救うための希望だ、あんたの物じゃない」


「何をおっしゃるのですか。それは人類にとって最大の敵ともいえる死を克服するための鍵なんですよ。私が研究すればきっと世界を導くことも可能になる!」


 男から放たれた穢れを防ぐと穢れは霧散した。


 なんとなく感じていたがこの手甲、やはり浄化の力があったか。


「アンジェロ、ニエとウムトを穢れから守ってくれ」


「ワンッ!」


「師匠、これを使ってください」


 左手の手甲を外し師匠へ渡す。


 師匠は利き手じゃなくても問題ないけど、さすがに俺はそこまで自信ないからな。


「ありがとう。借りるわ」


「たかがその程度で無限の穢れに対抗できるとお思いですか」


 男は穢れを纏うと大きく醜悪な姿に変わる。


「全員アノ世ヘ送ッテヤル。ソシテ私コソガ世界ヲ統ベル王トナルノダッ!!」


「王様ねぇ~。なりたがるバカはいっぱいみてきたけどまともな人間はいなかったわよ」


「師匠、それを言ったらシリウスが可哀想ですよ」


「ふふっ、そう思うならもう少し問題を起こさないであげたらどうかしら」


 言われてみればシリウスには散々迷惑かけたし今度労いの言葉でも……やめとこう。


 慣れないことをするのは危険だ、うん。


 笑いながら師匠と拳を交わす。


「さぁて準備運動は終わり。リッツ、ついて・・・きなさい」


「はいッ! 今日こそ師匠に並んでみせます!」


 世界樹の葉を口に放り込む。


 師匠の気配が動くのに合わせる。


「アノ世デ後悔スルガイイ下等生物ド――ッ!!?!!!」


「あれ、今何か喋ってませんでした?」


「さぁ? お喋りが好きなんじゃないかしら」


 あの男、敵を目の前にして備えていないなんてダメじゃないか。


 まぁいい、初動は師匠に後れをとってないはずだ。


 相手に不足はありそうだが耐久力はある。


 このまま修行の成果をみせてやろう。

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