第34話
ファーデン家へ戻ってきた俺は問題を抱えていた。斡旋所へ行ったはいいが、受付に着いた瞬間我先にと人が集まり、身動きがとれなくなったのだ。
くそ、聖人という肩書きを甘く見過ぎていた……。これじゃあ斡旋所は使えないし、バトラさんに誰か紹介を……いや、さすがにまだ何もやっていないのに頼むのは早すぎる。
……久しぶりに村でも行ってくるか。
「聖人様じゃねぇか! 久しぶりだな!」
「元気してた? 最近色々あってさ、羽を伸ばしにきたよ」
「がっはっはっは! こんな何もねぇ村にくるとは相変わらずだな。ゆっくりしていってくれ」
男は手を振りながら畑に戻っていく。ほかの村人も俺に気付くが挨拶すると仕事に戻り、街のような人だかりができることはなかった。
「ワン! ワン!」
「アンジェロ、あんまり遠くに行くなよー」
アンジェロが駆け回り村人たちに挨拶していると少女がやってきた。
「おにいちゃーーーん!」
「君はあのときの……どうだい、あれからお父さんの調子は?」
「元気だよ! わたしもお手伝いがんばってるんだ!」
「お~偉いねぇ、おとうさんも大喜びだろ?」
「うん! ――そうだ、いま迷子のおねえちゃんがおうちにきててね、だれかをさがしてるんだって。おにいちゃんはしらない?」
「誰だろう? 街のみんなにも聞いてみるから、一度その子に会わせてもらってもいいかい」
「はーい、こっちだよー」
アンジェロを呼び戻し少女と一緒に歩いていく。
「おねえちゃーん!」
川につくと洗い物をしていた女性の下へ少女が走り出す。女性は艶のある真っ黒な髪に見たこともない民族的な服を着ていた。
「やっとお会いすることができました、旦那様!」
女性はとてもいい笑顔をしている。
……何を言ってるんだろうこの人は。
「人違いじゃないでしょうか」
「いえ、神獣もおりますしあなた様で間違いありません!」
こいつ、アンジェロの正体を知ってるのか?
「おにいちゃんのおともだちだった?」
「あ、いやー……ちょっと混乱してるみたいだ。話してみるからあとは任せてくれ」
「わかった、お手伝いにもどるね」
少女が去っていっても目の前の女性はニコニコと笑顔を見せている。
「さ、いきましょう旦那様!」
「ちょ、ちょっと待て! 俺は君の夫じゃないし君のことを何も知らない!」
女性は笑顔のまま不思議そうにしている。
「そうでした、私しか知らないんでしたね」
何なんだこの子は……。
「とりあえず名前を教えてくれ。俺はリッツだ」
「私はニエと申します。神獣に選ばれし者と契りを交わすためあなた様を探しておりました」
「いったい何のことかわからないんだが、アンジェロのことを知っているのか」
「すでに名ももらったのですね。アンジェロ、これからよろしくお願いします」
「ワン!」
ニエはアンジェロを撫でると抱き上げクルクルと回った。
「さ、行きましょう! 私、楽しみだったんです。神獣に乗って旦那様と共に駆けるのが!」
「行くって……どこに?」
「旦那様の行きたいところへ! それが道を開くのです!」
「いや、どこにもいかないし……その旦那様ってのやめてもらえるかな。名前で呼んでくれ」
「わかりました、リッツ様!」
素直なのか何か隠してるのか、全然読めないぞ……。
「ニエは神獣のことを知っているのか?」
「はい、私たちは先祖代々神獣と共にありましたから」
「神獣っていったい何なんだ? 君はどこから来た?」
「んーそれはまだ言えません! でも、すぐにわかりますからご安心を!」
謎だらけだが何かを知ってるのは間違いないな。
「……ここじゃ目立ちすぎる。俺が世話になってる屋敷があるからそこにいこう」
森に入りアンジェロに乗るとニエは大喜びで俺に抱き着いていた。
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