第96話 ミレイユサイド
「おやおや、朝からなんだと思えば揃いも揃ってどうしたんですか」
「くだらん芝居はやめろ。今度こそ、貴様ら【ヴェーダ】もここで終わりだ」
教会の入り口に立っている男はニヤけながら勢揃いした騎士団を眺めていた。騎士団の横からウェッジが出ていく。
「時間がねぇんだ。大人しくしてれば痛い目にあわなくて済むぞ」
「誰かと思えば『紅蓮の風』まで……しかし一人とは分が悪いのでは?」
教会の中から男と女がでてくると、男は短剣、女は背に槍のようなものを背負っていた。
「揃いも揃って暗器とはねぇ。ちゃんと使えんのか?」
「あなたが相手にしたのは奇襲専門でして、戦闘は最弱でしたからね。今度はご満足頂けると思いますよ?」
「そうか、そんじゃ仲良く牢に入ってくれよ」
空気が張り詰めると団長が手を挙げる。
「誰一人逃すな! 我々王国騎士の力、見せつけてやれ!」
「おおおおおおおおおおおおッ!!」
兵たちの士気が上がると教会の前に立っていた男たちは散開した。ウェッジの前に立つ男の両手から刺突用の刃が現れる。
「短剣とも違うな、カタールか」
「ご名答、それでは始めましょう」
◇
数からみても有利と思われた戦いは予想外の展開を見せていた。
「攻撃を受けた者は下がれ! 治療班は敵の攻撃に警戒し毒の治療、投擲武器に注意しろ」
「この国の騎士団ってのも大したことねぇなぁ。俺もあっちにいけばよかったか」
団長の前で男がウェッジのほうを向きニヤリと笑う。手には異質な形状をした短剣が握られている。
「仕込み毒とは卑怯な真似を……」
「おいおい、俺たちが立派な騎士道精神を持ち合わせているとでも思ったのかぁ?」
男は動き出すと次々に兵を切り付け、切られた兵はその場に崩れていった。
「腕に自信のないものは一度下がれ!」
「仲間を下がらせるほど余裕があるのかぁ」
男は団長に斬りかかると同時にすかさずナイフを兵に向かって投げつけた。しかし投げられたナイフは石に弾かれ地面に落ちた。
「それくらいしか加勢できん、あとはそっちで頼む!」
「すまぬ、ウェッジ殿!!」
団長が男へ斬りかかると男は後ろに跳び距離をとった。
◇
「あんなに楽しそうにして……はぁ、こっちは雑魚ばっかりね……」
女は大勢の兵を前に溜め息をつくと、背中に付けていた槍のような長い武器を構える。先端には片刃で大きな剣のようなものがついていた。
欠伸をしながら片手で持ちあげると兵は後退るが、一人の兵が剣を手に構える。
「見た目に騙されるな! あのような武器を扱えるはずがない、スキルか何かが関係してるはずだ。同時に仕掛けるぞ!」
数人の兵が女を囲むと一人が走り出した。
「後に続けー!」
「あら勇敢なこと。――だけど、無謀ね」
女が武器を振り下ろすと兵は剣で受け流し、切られた地面が砂埃を上げると周りの兵も走り出す。
「ふん、ただ攻めるだけだと思うなよ!」
「大したものだけどこれはどうかしら」
女は刃のない背で横に薙ぎ払うと周りにいた兵をまとめて吹き飛ばす。驚異的な力と鎧に残った跡が続こうとした兵の足を止める。
「とっとと終わらせてあっちに混ざろっと」
◇
教会裏では逃げ出してきた者をすでに兵が捕らえ待機していた。
「ほ、本当にあの方を一人で行かせてよかったのだろうか」
「俺たちが行っても間違いなく邪魔になるだけだ。ここを片付けたら表の加勢に行こう」
「まさか『紅蓮の風』創設者同士の戦いとは……見てみたい気もするが」
「死にたければ止めないぞ」
「馬鹿をいうな。俺にだって大事な家族がいるんだ、無駄死にだけはしないと決めている」
兵たちが見つめる扉の先、教会内ではミレイユとアルフレッドが相対していた。
「やぁミレイユ。いつぶりだろう」
「慣れ合ってる暇はないわ。【エナミナル】をどうやって落とす気?」
「あの男、君の差し金だったか。新人を使うとはらしくないな」
「残念ながら彼は【カルサス】の使者よ。わかったらとっとと答えなさい」
アルフレッドの笑顔に対してミレイユは変わらず見据える。二人が消えた瞬間、お互いの拳がぶつかり衝撃が教会に走る。
「止めたければ力を示せ、あのときのようにな」
二人が距離を取るとミレイユは静かに深く呼吸を整えた。
「同じ風は二度吹かない。あなたの言葉、そっくり返させてもらうわ」
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