第37話

 シリウスが案内した先は小さな書庫だった。


「確か神獣については……あった、これだ」


 俺はシリウスから一冊の古い本を受け取る。


「神獣についての情報は少なくてな、昔から残された記録もここじゃそれくらいしかない」


 時間をもらい読んでみる――――。


「リッツ様、何かわかりました?」


「あぁ……わからないということがわかった」


 神獣は固定の住処を待たず昔から様々な土地で目撃されていた……ということはわかったのだが、それ以外は憶測や推測ばかりで真実になりそうなことは何一つ書かれてない。


「神獣は何をするでもなく、現れたと思えばいなくなるからな。一説では人間を監視しているのではないかということも言われたが、君のように接触を果たした者は記録の中にはいないんだ」


 シリウスは本を棚に戻すと相変わらず笑顔なニエを視た。


「君は神獣のことを知っているのか?」


「えぇ、知っています」


「話さないというのは話せないのか、それとも話す気がないのか、どっちだ?」


「話す必要がないだけです」


「リッツを夫とみるのはなぜだ?」


「リッツ様と一緒になるというのが私の運命ですから!」


 シリウスは真剣な眼差しで見るが対するニエはずっと笑顔だった。


「この子が言ってることは全部本当のようだ。君が責任を持って保護するしかないな」


「はぁまじかよ……」


 笑顔を崩さないニエは、もはやこうなることを知っていたかのようにもみえてしまう。


 アンジェロのこともあるからなぁ。


「仕方ない、ニエは俺が保護という形で預かることにしよう」


 進捗もなく書庫を出ると兵が走ってくる。


「殿下、ここにいらっしゃいましたか!」


「何用だ」


「それが……行商人から魔物の群れを山の先で見かけたと報告が!」


「なんだと!?」


「偵察の兵が向かっておりますが、話が本当なら近隣の村で甚大な被害がでてしまいます!」


「至急兵を集めろ! 見間違いだったとしても構わん、村の被害を少しでも減らすのだ!」


「はっ!」


 兵が走り去っていくとシリウスは俺をみた。


「リッツよ、万が一に備え兵たちと共に向かってはもらえぬか? 街にある薬や素材は好きに持って行って構わん。己の身が危ういと判断したら逃げることも咎めん。せめて一人でも村人が逃げられるよう助けてほしいのだ」


「わかった、俺は先に行って様子を見るから応援を頼む」


 すぐに城を出て近くの森へ入る。


「ニエ、さすがに君を連れていくわけにはいかない。俺の知り合いだって言えばファーデン家まで馬車を出してもらえるだろう。それで屋敷に戻るんだ」


「私の運命はあなたと共にいること、如何なることがあろうと付いて行きます」


「命をかけるほどのことじゃないだろう!? 過去の結果が運命というなら君はここで正しい選択をするべきだ!」


「リッツ様、私はすでに選択をしているのです。いつかわかるとお伝えしましたがそれは今ではありません。大丈夫、私のことは気にしないで。あなたは進みたいと思う道へただ真っ直ぐに進めばいいのです」


 ニエの放った言葉に恐れや恐怖はなく、俺に対する鼓舞や情けの色もみえなかった。

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