第30話
「それじゃあ俺は城で情報をもらってくる。くれぐれも……といっても無駄だろうが、できる限りいざこざは起こさないでくれよ」
シリウスの姿をしたシルエはまるで本人のようにため息をつくと出ていった。
さすがにもう大丈夫だって……たぶん。
「さてと、俺たちも行くか」
「ワン!」
今日はこの国の祝日らしく、大通りではちょっとした屋台なんかもでているらしい。カーラの用事が終わったらアンジェロと見に行く予定のため朝食は軽めに済ませた。
宿屋から出て鍛冶場へ着くと扉は閉めてある。
ちょっと早かったか、カーラが来るまで待ってるか。
アンジェロを撫でながら待っていると何かに気付いたアンジェロは走り出した。
「ワフッ」
「あ、おいこら! ――すいません!」
女性の下で止まったアンジェロを捕まえる。
「あの、リッツさん。今日は来てもらってありがとうございます……ッス」
ん? この声は……。
顔をあげた俺の前にワンピース姿でお洒落なカーラが立っていた。
「カーラか! 悪い、別人みたいで気づかなかったよ」
「へ、変じゃないッスか?」
「全然! カーラもそういう恰好するんだな」
「それどういう意味ッスか……」
「あぁいや! 作業着しか見てないしカーラって鍛冶場に籠ってるイメージだったからさ」
「もう……さすがに籠りっぱなしってわけじゃないッスよ」
「ははは、そりゃあそうだよな。それで今日は何をするんだ?」
「それなんスけど実は今日、大通りや広場にお店が出てて……い、一緒にどうかなーって……」
カーラは頬を掻きながら少し視線を逸らす。
これはもしかして……一人だと恥ずかしいから誰かと一緒に行きたいってやつか。友達はみんな都合がつかなかったんだろう。
「だったらちょうどいい、俺もこのあと行こうと思ってたんだ。初めてだから案内してもらえると助かる。アンジェロもこのまま一緒に連れてっていいかな?」
「もちろん! 美味い食べ物もたくさん出てるし、アンジェロにもお礼をするッスよ!」
「ワン!」
「よーし、それじゃさっそく向かおう」
広場がみえてくると賑わう声が大きくなり赤や緑など目にすることのなかった色が映る。
「まずはあっちの店ッス! 串焼きがとても美味しいんスよ!」
前に出たカーラはこちらを振り返ると急かすように手招きする。
よっぽど楽しみだったんだな……組織のこともあるが今日くらいは俺も楽しむとしよう。
――――
――
「へ~つまりその鉱石を混ぜて食器を作れば、このパフェも冷えたまま楽しめるわけだ」
「その通りッス。おっともうこんな時間……リッツさん、これを食べたら最後に行きたいところがあるんスけどいいッスか?」
すっかり日も暮れ、カーラが最後に向かった先は時計塔だった。
「おーなんて――」
寂しい景色なんだ……。
空ではモクモクと煙が流れ、夕陽に照らされた大地はあちこち穴が開いている。カーラに抱かれているアンジェロも心なしか悲し気だ。
「はは、お世辞にも綺麗とは言えないッスよね。この国は元々草木があったらしいんスけど、鉱石や油田が見つかって掘り起こしているうちにこうなったって聞いたッス」
俺が生まれた村とは正反対だな……繁栄のためには仕方ないところもあったんだろうが……。
カーラは明かりが灯り始めた街を眺める。
「リッツさんに聞いてほしい話があって……昔、事故で火傷したって言ったッスよね。実はそれ、親父がある実験をしてる最中に私が鍛冶場に入ったのが原因だったんスよ。それ以来、親父は鍛冶場を閉めてしまって……」
「お互い悪気があったわけじゃなかったんだろ?」
「もちろんッス。でも、私が子供の頃に母さんを病気で亡くしてから、親父は危険なことを遠ざけるようになって……実験というのも私を喜ばせるためにしてたんスけど、事故がきっかけでまともに話もしてくれなくなったんスよ」
「……カーラのことが心配だったんだよ。大切な家族だから」
「分かってるッス、だから私も親父の実験を成功させようとしたんスけど失敗続きで……」
あんな爆発がしょっちゅう起きてるのかよ。
「余計なお世話だと思うが、もう少し安全を確保してからにしたほうがいいと思うぞ」
「それなんですが今度からは一人じゃないッス。リッツさんに助けてもらってから親父と話をすることができて、一緒にこの実験を成功させようって――これもリッツさんのおかげッスよ」
「よしてくれ。たまたまとはいえ一時は俺のせいで危険な目にあったんだ」
それを聞いたカーラはアンジェロを降ろすと鞄から鉱石を取り出した。
「これは昔親父が唯一成功させたモノで、リッツさんに見てもらえって親父にもらったッス」
「何なんだこれは?」
「みてのお楽しみッス! これを高く空に向かって投げてほしいんスけどいいッスか?」
「あぁ、それくらいなら任せておけ」
カーラが紐を巻き付けてる間に俺は草を齧る。
「それじゃ火をつけるので合図したら思いっきり投げてくださいッス」
カーラが紐に火をつけ数えると合図を出し、俺はすっかり暗くなった空に向けて鉱石を投げつける。煙の中に消えていった鉱石を見届けると大きな爆発が起き煙を吹き飛ばす。
「お、お~~~こりゃあすごい!」
「ワンワン!」
爆発で散った鉱石はキラキラと光り輝き、街から歓声が上がると徐々に燃え尽きていった。
「リッツさん……本当にありがとッス」
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