第29話

「……あんたはいったい何者ッスか?」


「俺はリッツ、渡した回復薬のせいでこんなことになるとは思わなかった。本当にすまない」


 俺は瓶を回収するとカーラの元に戻る。


「そ、そんなことないッス! これ――これをみてくれッス!」


 カーラは首元を開けると肌を見せてきた。


「昔、事故でここに大きな火傷を負ったんスけど跡形もなく綺麗に治ってるんスよ! あの薬はいったい……エリクサーって言ってたけどもしかして……!?」


「君が飲んだのは普通の回復薬だよ、不死なんてならないから安心してくれ」


 半信半疑のカーラは自分の身体を確認している。


 とりあえずここの連中は全員縛っておくか。


「だ、大丈夫ですかボス!?」


「気絶している……お前ら、中を調べてこい!」


 仲間がいたか、一人も逃がす訳にはいかないしどうするかな~。


 バタバタと走る音が迫ってくる。


「ど、どうするッスか!? いっぱい来るッスよ!」


「とりあえず君はアンジェロと一緒に机の下にでも隠れてて」


「ワン!」


 アンジェロがカーラの服を引っ張り机に隠れるとすぐに男たちが部屋に入ってきた。


 1、2、3……全部で五人か。


「誰だ貴様! ここで何をしている!?」


「いやー道に迷っちゃってさ。急に襲ってくるもんだから……正当防衛ってやつ?」


「ふざけんじゃねぇぞこら! やっちまえ!」


 ほい、ほい、ほいっと。


 男たちを手早く倒し窓から外に出る。


「なぜ戻ってきた? さっさとお前も中に――ぐあっ!?」


 声がしたほうへ走ると体格のいい男がもう一人の男を倒していた。


「まったく、なんで君がここにいるんだ」


「シルエか! いやー助かったよ。そいつで最後?」


「君が一人も逃していなければな」


「それなら大丈夫だ。中に助けた女性がいるから部屋に戻ろう」


 部屋へ戻りカーラに無事を知らせる。


「それでシルエはなぜここに?」


「王からの情報を元にギルド付近をうろついていたらあいつらに捕まってな。仲間がやられた代わりに聖人を連れてきたといったら、ボスへ報告に行けと言われてここにきたのだ」


「すまん。こいつらが組織の連中ってのはわかったんだが、それ以上の情報は得られなかった」


 シルエは黙って部屋を見渡すと机の引き出しを開ける。そして中から書類の束を取り出した。


「情報ってのは人だけじゃない。ほかにもありそうだしここが奴らの拠点とみていいだろう」


 それをみたカーラは慌てて俺たちを交互にみる。


「ちょ、ちょっと! 王って……それに組織ってなんのことッスか!?」


「ん~口外しないって約束できる?」


「おいリッツ、下手なことを教えると彼女の身が危うくなるぞ」


「実はすでに色々聞いちゃってるんだよねぇ。エリクサーのこととかも」


 シルエはカーラをジッとみると部屋の出口に歩いていく。


「俺はここのことを衛兵に知らせてくる。彼女のことはお前に任せたよ」


 シルエが出ていくと俺はカーラに簡単に説明した。


「それじゃあカルサスに現れた聖人ってのは……」


「別になりたくてなったわけじゃないんだがなぁ。カーラもこのことは他言しないでくれよ?」


「も、もちろんッス!」


 口約束しかできないのは仕方がないな。


 外が騒がしくなるとシルエが戻ってくる。


「今から衛兵がくるがほかにも組織の連中がいるかもしれん、君たちは先に戻ってたほうがいいだろう。リッツ、彼女を送っていってやれ」


「わかった、アンジェロ頼んだぞ」


「ワフッ」


 裏手に出ると大きくなったアンジェロに乗る。


「この子、まさか神獣ッスか!?」


「君は何もみていないしアンジェロが大きくなるなんてことはありえない。いいね?」


「……だ、誰にも言わないッスよ」


カーラを乗せアンジェロが走るとあっという間に鍛冶場のあった路地にでた。


「ありがとう、もういいぞ」


「ワォン」


 アンジェロを撫でると元の大きさに戻る。しばらく進み鍛冶場の近くまで歩いていく。


「カーラ! 無事だったのか!? 怪我は、怪我はないか!?」


 カーラの父親は大慌てで走ってくるとカーラの体をチェックする。


「この人が助けてくれたッス。えっと……リッツさんっていうッス」


「君は……あのときはすまんかった! 娘を助けてくれて、本当になんと礼を言ったら……」


「気にしないでください。それよりお酒はほどほどにしないと、カーラさんが心配しますよ」


 父親は罰が悪そうに頭をかきカーラをみた。


「それじゃ俺はこの辺で。何かあればすぐに衛兵に知らせてください」


「ま、待って! リッツさん……お礼がしたいから三日後の朝、ここに来てくれッス!」


「そんなの気にしなくても――わかった、それじゃあ三日後な」


 カーラの必死の頼みに押され約束すると、宿に戻った俺はすぐ眠りについた。

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