第31話 ミレイユサイド

 星の光に照らされた平原で異形の獣を紅い騎士たちが倒していく。


「はッ!?」


 ミレイユは拳で魔物を吹き飛ばすとそのまま空の彼方をみた。


「団長、どうしやした?」


「この前と同じ――いや、前よりもはっきりと感じた!」


「ま、まさか、またリッツのことですかい?」


「あぁ、リッツに悪い虫が迫ってる、そんな予感がする!」


 暗闇からミレイユの背後に魔物が現れると仲間の騎士が危なげなく倒す。


「心配なのはわかりますがあいつだってもうガキじゃねぇんだ。そろそろ独り立ちさせて――」


「なんだと貴様? リッツはもう立派な青年だ。一人で生きていくことくらいできる!」


「だったら……なんでもねぇ、さっさとここも片付けちまいましょう」


 魔物を倒し終えるとミレイユたちはキャンプ地へ戻る。


「まさかもう倒してきたのか? 早すぎるだろ……」


「さっき出たばかりだろ、ビビって逃げてきたんじゃねぇのか」


 ミレイユたちが大きなテントに向かうなか兵たちはそれを見送った。


「言われた通り魔物の討伐は完了した。ほかには何が残ってる?」


「まさかこれほどとは……あとは国へ要請した追加の兵を待つだけだからゆっくりしてくれ」


「わかった、それが到着次第我々の任務は終わらせてもらう」


 ミレイユたちはテントを出ると自分たちの陣へ戻った。


「お前はこの国の出身だったよな? ギルドもあったはずだがなぜこれほど人が少ないのだ」


「俺がいた頃は結構な稼ぎになるから率先して参加させてもらってたんですがねぇ」


 男が答えるともう一人の騎士も辺りを見渡しながらため息をついた。


「それにしてもここの奴ら、兵はまだしも隊長面した連中の無能っぷりはなんですかね? 薬がありゃいくらでも戦えると思ってんのか知らんが、まともに指揮もせずふんぞり返ってやがる」


「どっかのお偉い貴族なんだろうよ。装備だって傷どころか汚れ一つ無い、そんな人間が前線にきてやることと言ったら手柄を横取りするくらいと相場が決まって――っと噂をすれば、か」


 立派な鎧に身を包んだ男性がミレイユたちの下へ歩いてくる。


「さすがは『紅蓮の風』、噂にたがわぬ活躍っぷりですね」


「世辞はいい、なんのようだ」


「まずは自己紹介をさせて頂こう。私はレブラント家の嫡男、トリストンと申す」


「……ミレイユだ。それで要件は?」


「あなた方の腕を見込んで是非私どもの家にほしいと思いましてね。聞いた話だと、あなた方はポーションの効果を偽った者の尻拭いをさせられてきたのだとか」


「貴殿には関係のない話だろう」


「詮索するつもりはありませんよ。だがこんな場所へ遣わされたということは国での立場もあまり良くはないのでは? ならばそろそろ住処を変えるというのも悪くはないでしょう」


「要らぬ心配だ。それよりも貴殿らは兵の指揮を執らぬのか?」


「はっはっはっは、それこそ要らぬ心配です。我々は戦闘に特化したスキルを持っている。いざとなれば魔物程度一瞬で葬れるのですよ」


 ミレイユは男を怪訝な顔で見つめる。


「そう心配なさらずとも、あなた方のポーションのおかげで何人も死なずに済んでるのだ。そんなことよりも先ほどの話、考えてもらえますかねぇ?」


「……我々は今、人を探している。誰だろうと仕える気もない」


 トリストンは何か考え手を叩いた。


「それなら一つ、私には妹がおりましてね。まぁレブラント家としてはあまり表立って言いたくはないのですが酷い臆病者で。そんな妹も面はいいので嫁にいったのですが、その嫁ぎ先というのが【カルサス】の伯爵家でして、そこならその人物も見つけることができるかもしれません」


 騎士がミレイユへ近づく。


「団長、【カルサス】っていえば聖人の噂がある場所ですよ。そこの伯爵家となればすぐにでも情報を集められるんじゃ?」


 ミレイユは騎士を見るとジッと何かを考えた。


「我々は誰にも仕えん、だがその情報はありがたくもらっておく。代わりに我々がここで倒した魔物の手柄は貴殿にやろう」


「それはいい案だ。レブラント家は代々功績を重んじる家系でしてね。お礼にもう一つ、妹が嫁いだ先はファーデン家という名です。妹に会ったらやっと役に立ったなとお伝えください」


 そういってトリストンは去っていった。


「自分の妹だってのにあの言いぐさはなんですかねぇ」


「貴族ってのは家柄によって違いが大きいからな。……私も、リッツのポーションがあんな奴らに渡っていたと思うと反吐がでるよ」


 ミレイユたちは気を紛らわせるように装備の手入れをした。

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