第19話

「それではリッツ殿、村を頼んだぞ!」


「先生、お気をつけて!」


 ギルバートさんとユリウスに見送られ馬に乗るとティーナたちが走ってくる。


「リッツさん! やっぱり私も一緒に――」


「ティーナ、今回ばかりはダメだ。君に何かあればユリウスたちに顔向けができなくなる」


 ティーナはジッと見つめてきたが俺は首を横に振った。


 まだ犯人の狙いがわからない以上、迂闊に動くわけにはいかない。


「ティーナさん……先生なら大丈夫です。なんせ僕がしてきた鍛錬の中でも先生の修行だけは逃げ出したくなるほど厳しいんですから!」


「ユリウス様……」


「様はやめてください、身分では僕よりティーナさんのほうが上なのですから。先生に何かあったら、父上と僕がすぐに向かいますよ!」


 ユリウスはティーナに向かって胸を張ると、エレナさんも続いた。


「お嬢様、ユリウス様の言う通りです。いっそのこと、リッツさんがお戻りになられるまで奥様に出迎えの作法を教わりましょう」


「エレナ……わかりました。リッツさん、くれぐれも無茶だけはしないでくださいね」


「あぁわかってる。アンジェロ、留守番を頼んだぞ」


「ワン!」


 俺は馬を走らせると疫病がでたという村へ向かった。







 村へ到着すると兵士たちが薬を運んでいる。


「リッツ様! お待ちしておりました!」


「村の人たちの症状はどう?」


「以前お渡し頂いていた薬のおかげで大半が治っております。ただ、一つおかしな点がありまして、初めに感染者が出てから1時間程度で大半が発症したと言ってるのです」


「どういうことだ……感染していない人たちに何か特徴はなかった?」


「それが特に何も……今は感染源を探しているため持ってきた物資で対応しております」


「わかった、俺も探してみる」


 とはいってもこの広い自然の中じゃ時間がかかりすぎるな……。


 俺は感染しなかったという村人の家へお邪魔した。


「おやおや、まさか聖人様がいらっしゃってくださるとは、ありがたやありがたや……」


「突然お邪魔してすいません。この家は何か変わったこととかありませんか?」


「変わったことですか? はて……この家は私一人ですから特に何があるというわけでも。一月に一度息子夫婦が食料をもってきてくれますが、あとは村のみんなに手伝ってもらってます」


 たまたま感染しなかっただけか? だがこの家の周りは全員発症しているし……ん、あれは。


「お婆さん、あそこに入ってるのは水ですか?」


「そうです、この体では川から水を運ぶのも一苦労ですから、ああやって溜めてるんですよ」


 最初に俺がいった家でも少女があそこから水を汲んでいたな……もしかして……!


「あの、これはどのくらいの頻度で交換しているんでしょうか」


「子供や働き盛りが多い家じゃ一日か二日でしょうか。私みたいに年寄りだけじゃほとんど減りませんからそんなに入れ替えたりしませんが」


 そうか……もしかすると疫病の原因はあそこか!


「お婆さんありがとう! いいって言われるまで川の水は飲まないでこれを飲んでね!」


 俺は水の入った瓶をお婆さんに渡すとすぐに川へ向かった。


 さぁて俺の予想が正しければここが――――。


 川の水を手ですくい口に含むとすぐに吐き出す。


 やっぱりか、ってことはこの上に……。


 川を遡っていくと木にロープが結び付けられており川の中にいくつか麻袋が沈められている。


 これが原因で間違いないな……とりあえず兵に報告だ。


「リッツ様、これは……」


 兵が川から袋を引き上げ中を確認する。


「トウカ草だ。これだけの量を川に浸せば毒素が反応して流れ出る。ただし、この方法だと短期間だけで、しかも水を飲んだ人にしか効果はないけどね」


「ということは村人が疫病になったのはこの川の水を飲んだためだと?」


「あぁ、毒素自体は残ったりしないから数日放っておけば綺麗になるだろう。問題はこれを仕組んだ犯人がいるということだ」


「ぬ~なんと非道なことをッ! すぐに兵を集め探し出します!」


「念のためほかにもないか調べてくれ。俺はこのことを王様へ報告してくる。あと、くれぐれも家の中にある水は飲まずに捨てるよう徹底してくれ」


 すでに日も暮れ始めていたが俺は急ぎ城へ向かった。

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