第120話 ニエサイド

 ニエはウムトとリヤンに呼ばれ部屋に集まっていた。


「ニエさん、声が聞こえたというのは間違いないんですね?」


「はい、声がしたと思ったら急に不安というか虚しいというか、うまく言えないんですがそういう気持ちが溢れてきて……」


 ニエの話を聞いたリヤンがウムトに視線を送った。


「ニエさん、それは神獣であるアンジェロがリッツさんの心を感じ取って助けを求めたんです。ニエさんが感じたという感覚、それはリッツさんの奥底にある心です」


「で、でもリッツ様は私が駆け寄ったとき、特に変わった様子はありませんでした」


「自分の心がどうなってるかなんて普通じゃわからないものよ。だけど、アンジェロが反応したということは危険だったことに間違いはない。それくらい神獣というのは人の心を察知する能力が高いの」


「でも、何か起こるのであれば【予知夢】で視るんじゃないでしょうか」


「んー……例えば、一つの結果を視たとしましょう。その結果にでてきた人物がどう思ってるかなんて予想できる? あなたの【予知夢】は確かにすごいけど、心なんていくらでも変わるのよ」


「それじゃあリッツ様は!?」


「まぁ落ち着きなさい」


「ニエさん、あれからアンジェロの声は聞こえていないんですよね?」


「と、特に何も……」


「それなら大丈夫です。神獣が人の心を他人に共有させるのは本当に危ないと感じたときだけですから。それに、神獣と心を交わしたニエさんならばアンジェロと感覚を共有できているはず。心当たりありませんか?」


「――っ!」


「身体が変わったわけではないので安心してください。こんなことをいうのもなんですが、僕もトリスタンと感覚を共有できます。気になることがあれば聞いてもらって構いません」


「このことはリッツさんやミレイユさんに話しても大丈夫でしょうか」


「ええ、あのお二人なら信頼できますからね。ただしリッツさんにはアンジェロが心配していたくらいに留めておいたほうがいいでしょう。すべてを知らされても本人は困るだけでしょうから」


 一通り話が終わるとニエはミレイユの下へ向かい説明する。


 話を聞いたミレイユは驚いたが神獣の生体はそもそもはっきりしていないため、少し強引だがニエの言葉に自身を納得させることにしていた。


「ところで昨晩からリッツに変化はなかった?」


「今のところは特にないようですが、気になることでもありましたか?」


「リッツとお風呂場で鉢合わせたんだけど、相変わらずだったから心配してたのよ」


「ッ! 待ってください、もしかしてリッツ様って女性に興味がないんじゃ――」


「まさかそんなことあるわけ……ちょっと心配になってきたわ」


「ミレイユさんでも反応しないとなると由々しき事態ですね……。手遅れになってしまう前にどうにかしないと!」


 二人はリッツの不能疑惑を解決すべく夜更けまで話し込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る