第142話
「リッツ、何をしてるの」
「げっ……師匠……！」
マズい、エリクシールが芽生えるまでここにいますなんていったらどうなるか……。
俺が師匠に弟子入りするとき自己犠牲の精神は捨てろと約束している。
「伝説の草であるエリクシールの芽吹きをみたくてですねー」
「あなたはいつから私に嘘が通用すると思ったのかしら？」
ダメだな、完全にバレてる。
正直に話そう。
「師匠、もう穢れの浄化も間に合いません。せめてエリクシールが育つまで俺がここに残りますから、師匠はみんなと脱出してください」
「弟子を残して師である私だけ逃げろだって？ 随分偉くなったものねぇ」
言い方が悪かったか！？
師匠の手が迫ってくる。
捕まれば最後、どんなお仕置きをされるかわからない。
だが師匠の手は俺の頭を軽く叩いただけだった。
「ったく、いつも一人で抱え込もうとしないの。一緒ならどうにかなるかもしれないでしょ」
「師匠……そうですね、必ず生きて帰りましょう」
穢れがあっという間に周りを囲み始める。
「リッツ、出口の確保は任せたわ」
「はい！！」
地面を蹴り走り出した瞬間、後ろに気配を感じると師匠がいた。
身体が軽くなり上空に投げ飛ばされる。
「うわあああぁぁっ！？」
「リッツさん、危ない！」
ウムトの声に反応して受け身をとる。
すぐに振り返ると師匠が穢れの隙間からこちらに手を振った。
「リッツ、みんなをつれて脱出しなさい。これは命令よ」
「し、師匠ッ！？！！ な、何を言ってるんですか俺も残ります！」
「この穢れはエリクシールでなければ浄化できない。あなたも分かってるでしょ」
確かに穢れは今までと比較にならないくらい強力だ。
それこそ、神獣の武器を使っても消せないほどに……。
「――みんなによろしくね」
勢いを増した穢れが埋め尽くしていく。
「師匠おおおおぉぉっ！！！！！！」
「……リッツさん、ここは危険です。いきましょう」
「ウムト何を言って……」
「大丈夫、僕に考えがあります。信じてください」
そういってウムトは走り出した。
しばらくすると穢れの少ない場所で立ち止まる。
「ちょっと遠くまで来すぎちゃったかな。よし、リッツさん戻りますよッ！！」
「はぁっ！？ 何言ってんだ！？」
「話は道中でします！」
――――――
「――ってことは、ニエは師匠が残ることを知っててわざと？」
「あくまで予想ですが。アンジェロが協力的だったのはニエさんの意図とリッツさんの考えが同一方向になっていたからです。もしリッツさんが少しでも逃げようと考えていたなら、アンジェロはニエさんに協力しなかったでしょう」
「そう言われるとなんだか巻き込んだみたいで悪いな……」
「はははっ、神獣とはそういうものです。トリスタンだってリヤンを守るという僕の意思を尊重してくれてます」
無事に戻れたらアンジェロの好きな食べ物でもご馳走してやろう。
ニエは説教だな、俺たちがいるのに一人だけ犠牲になるなんて馬鹿げてる。
もっと自分を大事にするべきだ。
来た道を戻ると壁のようになった穢れの前にアンジェロとニエが立っていた。
「アンジェロ、頼んだわよ」
「ワン！」
アンジェロが咆哮すると道を開けるように穢れが消えていく。
その奥では師匠が一人で穢れの猛攻を凌いでいた。
「ミレイユさん、ここはアンジェロと私に任せてください！」
「ニエちゃん！？」
「実はゴードンさんに解決策を教えてもらったんです。なので一度外にでてください！」
襲ってくる穢れをアンジェロが浄化する。
状況をみた師匠は頷くと穢れの範囲からでた。
「やった……できた……」
「えっ」
「ミレイユさん、今までありがとうございました」
笑顔でお辞儀をしたニエと寄り添うアンジェロの周りを穢れが埋め尽くす。
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