エリクサーは不老不死の薬ではありません。～完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ～

第83話

　収穫祭二日目、俺たちは昼まで睡眠を取ると交代までまだ時間があったため、食事もかねてリヤンたちと少しだけ祭りを見て回ることにした。

「リッツよ、今日は私が店を案内してやろう！」

「ワフッ！」

　リヤンとアンジェロが案内した先は串焼き屋だった。寝起きで肉というのもちょっとなどと考えていると、香ばしい匂いが風に乗りやってくる。

「お、嬢ちゃん！　また来てくれたのかい？」

「お主の串焼きは絶品だからな、客を連れて来たぞ」

「こりゃあ聖人様じゃねぇか。まさか、二人に子供がいたのかい」

　リヤンは反応することなく焼けていく串焼きに夢中だった。

「この子は親戚の子でね、訳あって俺が預かることになったんだ」

「ほぉ～てっきり隠し子でもいたのかと思ったよ」

　俺たちが雑談しているとリヤンが割り込んでくる。

「そんなことはいいから早く食べるぞ！　腹が減ってはまともに警備もできんだろう！」

　リヤンに急かされ注文すると、店主はある程度焼けていた串焼きをタレに付けてもう一度焼き始めた。肉とタレの香ばしい匂いが食欲を刺激していく。

　寝起きで肉って……案外ありかもしれないな……。

「うま～！　このタレ、ちょっとだけだが香草を混ぜてるな？」

「おっ、さすが聖人様！　わかるかい！？」

「ほんの微かにだがそのおかげで肉の臭みだけが取れて美味しいよ」

「リッツ様、美味すぎて寝起きだっていうのにおかわりできちゃいそうです！」

　ニエの言葉通り、俺たちはあっという間に串焼きを食べ終える。

「そこまで褒めてもらえるとはねぇ、どうだもう一本？　サービスしとくぜ」

「いや、すまないがほかにも見て回りたいから好意だけ受け取っておくよ。それに――」

　周りをみると聖人である俺が食べているせいか、店の前は人だかりができていた。

「この通り、忙しくなるかもしれないが勘弁してくれ」

「がっはっはっは！　こりゃあいい置き土産だ！」

　店主に礼を言われ、次に俺たちが向かったのはここでは珍しいモイという実を、高熱の石で焼いた焼きモイの店だった。

「あらぁお嬢ちゃんとワンちゃん、また来てくれたの？」

「また来てやったぞ、客を連れてな！」

「ワフッ！」

　自慢げに胸を張るリヤンとアンジェロの後ろから挨拶をする。

「あらあら、聖人様と奥さんじゃない。まさか子供がいたなんてねぇ」

「親戚の子で預かってるんです。このお店は商品が二種類あるんですね」

「そうなのよ～、一つはトロリと甘～い蜜があって、もう一つはホクホクとしてデザートのような甘さ、どちらも違った美味しさがあるから食べ比べてみるのもいいわ～」

「それじゃ二つずつください」

　店主が準備を始めるとリヤンが俺をみる。

「リッツよ……ここは美味しいが注意したほうがいい、焦って食べると大変な目にあうぞ」

「ワフッ……」

　何やらリヤンとアンジェロは大変な目に一度あっているようだ。

「は～いお待たせ～」

「熱っち！？　お姉さんよく平気ですね……」

「そう？　食べるときは気を付けてね。お嬢ちゃんたち、大変だったもんね～」

　さすがの熱さに俺たちは近くにあった机で座って食べることにした。

「熱ちちちっ……まずは半分にして冷ましたほうがいいな」

　半分に折るとそこから熱気が上がり、同時に甘い香りが漂ってくる。

「ふー……ふー……ふー……」

　俺とリヤンが必死に息で冷ましているとニエが一口食べた。

「わぁ！　なんともいえない甘さが美味しいです！」

「えっ、もう大丈夫？」

　リヤンと俺はニエの笑顔を見て同時にかぶりついた。

「熱っちゃーーーーーー！！」

「……ワフッ」

　アンジェロは冷静に目の前のモイを触り温度を確かめている。

「少し熱いですが、出来立てが一番っていいますからね！」

「うー……また火傷した……犠牲の上に成り立つ甘味とはな……」

　リヤンは泣きそうになりながらもゆっくりと食べ進める。いくつかに割ってあげるとアンジェロも恐る恐るだが食べ、問題ないと分かると一気に食べた。

「リッツ様、こっちの種類もどうぞ」

「……おい、熱いまま食わせようとするなよ」

「もう大丈夫ですよ。ほら、ふーふーしてあげますから」

　わざとらしくニエは割った部分に息を吹きかける。

「わかったからやめてくれ」

「はい、どうぞ」

　ニエに差し出され食べると、俺が食べていたほうとはまた違った甘みと食感が口いっぱいに広がる。

「食感が全然違うな。ほら、ニエもこっちを食ってみなよ」

　そのまま差し出すとニエが食べる。

「あら、本当ですね。どちらも特徴があって面白いです」

「私はこのトロッとしたほうが好みだぞ。甘さも濃厚で満足度が高いのだ」

「ワン！」

　リヤンとアンジェロの口周りがすごいことになっていたため拭いていると、周りの視線が集まっていた。

「あらあら～、まるで新婚みたい！」

「聖人様は面倒見のいい旦那様ってところね。あの子もお淑やかでお似合いだわぁ」

「うちの旦那も酒ばっかり飲んでほっつき歩いてないで、少しは見習ってくれないものかしらねぇ」

　不穏な単語が飛び交うなかニエは俺に向かって小さくガッツポーズをした。

　皆さんよく見てください、騙されてますよー。

　ニエがお淑やかを演出しリヤンとアンジェロはとても楽しそうにしている。

　……まぁ、祭りが終われば誤解も解けるだろ。

　しばらく街を見て回るとアンジェロが何かに反応する。

　路地裏に行くと薬草をラッピングするためのリボンが落ちていた。