第45話 ミレイユサイド

 城の中にある客間、そこにシリウス、ミレイユ、ニエの三人が座っていた。ニエは相変わらず笑顔だったが、シリウスとミレイユは眉一つ動かさずに机においてあった紙に目を通す。


「すまない、急に連れ出したりして」


「いいえ、私がリッツ様のお役に立てるのなら何も問題はありません」


 笑顔のまま表情を崩さないニエをみたミレイユとシリウスは顔を合わせ頷く。


「君にはいくつか質問をさせてもらう。先に言っておくが私に嘘は通じない。だが、これは尋問ではない、答えたくなければ嘘をついても構わない。このことに関しては一切罰がないことを約束しよう」


「わかりました、私が知ってる範囲であればお答えします」


「それじゃあまず一つ目、君は【ヴェーダ】という組織を知っているか」


「知りません」


 ユリウスは机に置いてある紙に何かを書き記す。


「それじゃあ次だ。君は神獣のことを知っているが話す必要がないと言っていたな。君にとっては小さなことかも知れないが私たちにとっての神獣とは未知の生物だ、詳しく教えてほしい」


「神獣とは神の使いであり選定者です。選定者である神獣に選ばれた者は、守護者となります」


「守護者……いったい何を守るというのだ」


「そのままの意味です。人には様々な守るべきものがありますよね。家族、愛する人、地位、財産、命、そして世界――このどれもが守護すべきものといっていいでしょう」


 笑顔を崩さないまま淡々と話すニエを二人はジッとみる。


「ニエちゃん、あなたはどこからやってきたの」


「私はリッツ様を探すために旅をしていましたので、正確な住処というのは持ちません」


「あなたの家族や親戚はどこに?」


「すでに他界し、残った一族がどこかも私にはわかりません」


「……失礼したわね」


「お気になさらないでください」


 シリウスは書類をまとめると立ち上がり、大きな外装を身に纏った。


「教会へ行く、戻るまで頼んだぞ」


「…………」


 誰もいない部屋の隅に声を掛けるとミレイユとニエの下へ戻る。


「君たちに見せたいものがある。ついてきてくれ」


 三人は立ち上がると教会の地下へと向かった。







「……ここにあったのね」


「先代とそなたが面識があったとはな」


「元々は【ブレーオア】の先代国王が奴らを捕らえようとして【カルサス】にも協力してもらっていたのよ。あと一歩のところで逃げられてしまったんだけど、これはそのときアジトから見つけたの。【ブレーオア】にもあるわ」


「後ほど詳しく教えてくれ。とりあえず今は――君はこれを知っているか」


 シリウスの言葉にそれまで笑顔だったニエは石碑にそっと手を触れると表情を変えた。


「これは古い歴史……そしてそれはまだ続いている。私はすべてを知るわけではありませんが、この石碑の裏に真実があると言い伝えられております」


「裏だと? ふむ……私ではこれを動かすことはできないからな……」


「私に任せて」


 ミレイユが壁に指を掛けるとはめ込まれていた石碑はゆっくりと動き出す。壊れないように移動させると裏返す。


「……リッツが強い理由がわかった気がするよ」


 シリウスが石碑を調べると小さく誰かが傷をつけたような跡を見つける。


「選ばれし者よ、神獣が守る聖域にて決断を下せ。我々はそれを以て答えとする……」


「一度考えてみる必要があるわね」


 ほかには何もないことを確認すると三人は城へ戻った。

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