第50話
「ぐっ……ううぅ……」
「大丈夫か、しっかりしろ!」
回復薬を渡すと男は一気に飲み干した。
「はぁはぁ……くそ、なんだあのバケモノは!」
「ここに来る途中、倒れた兵を見つけた。魔物に襲われたのか?」
「魔物なんてもんじゃねぇ! 今すぐここから逃げなければ……!」
男は治っていない腕を庇いながら洞窟を出て行く。
「――お、お兄様?」
「ティーナ……? ……う、ううぅ……」
男は急に苦しみだし腕を抑えるとその場に膝をついた。
「大丈夫ですかお兄様!」
ティーナはアンジェロから降りると駆け寄る。
「ティ、ティーナ……? お、オ前サエ、イなケレバ……アアアアアアアアアアアッ!!」
男の腕が肥大化すると肉腫が巨大な爪に形を変えていく。
「――ッ! ティーナ、危ない!」
爪が振り下ろされる寸前、ティーナの体を抱きしめ跳ぶ。
「大丈夫か!?」
「リッツさん…………お、お兄様は!?」
何があったのか遅れて理解したティーナはすぐに身を起こす。
くそ、何なんだあれは!
目の前にはティーナの兄だったものが苦しみ悶えていた。
「ティーナ、アンジェロのところに戻れ。……あれはもう、君のお兄さんじゃない」
俺は朧草を取り出し口に運ぶ。
「そんな……なんとかできないんですか――」
ティーナが目を逸らした瞬間、男は飛び掛かってきたが俺は爪を避け蹴り飛ばした。
「間違いなく殺しに来ている。彼はもう正気じゃない」
ティーナは男に手を伸ばすが、胸元で留める様に手を握るとアンジェロの下に走り出す。
「グウウゥ……ジャ、邪魔ヲスるナ!」
「まだ意識があるのか!?」
何度も襲い来る男の攻撃は思いのほか単調だったため凌ぐことができる。これなら何か助けられる方法があるかもしれない――そう思った矢先、アンジェロの遠吠えが響く。
「アアアアああぁアアあぁぁあ……!」
男が苦痛に叫ぶと、腕に生えた肉腫が暴れ始めた。
「リッツ様! それを潰してください!」
いつの間にか近くにいたニエが叫ぶと、俺は男の鎧を掴み地面に叩きつける。ひしゃげた腕から生えていた肉腫が消えていくと、体は傷だらけのままではあるが戻っていく。
「回復薬を、その方はまだ助かります」
俺はすぐさまエリクサーを取り出すと男へ飲ませる。
――――
――
「……わ、私は……そうだ、あのバケモノは……!」
「お兄様!!」
ティーナが駆け付けると男は怪訝な顔をする。
「なぜお前がここに――わかったぞ、すべてお前の差し金だな!?」
「わ、私はお兄様を助けるために来たのです!」
「誰がお前の手になどかかるか! くそ、屋敷に戻ったらただでは済まんからな!」
男は俺たちの制止に耳を貸さず元気に走り去っていく。
「仕方ない……まだ何がでてくるかわからないし、お兄さんの後をつけよう」
ティーナに声を掛けアンジェロを呼んだそのとき、咄嗟に俺は洞窟があった崖の上をみる。
「みつけた……」
こ、この殺気はヤバい!!!!
人間を乗せた真っ黒な巨獣がこちらに飛び降りてくる。
「アンジェロ、みんなを連れて逃げろ! ここは俺が食い止める!!!」
巨獣の鋭い牙を間一髪で避けカウンターで顔面を殴りつけると、メキメキという音と共にそのまま地面へ倒れる。
「終わりだ」
背後から声が聞こえた瞬間俺の体を何かが貫く。引き抜かれるとそこにはニエと同じ黒髪で真っ黒な痣が顔にある少年がいた。肉腫によって異様な形状をした手は血で染まっている。
途切れそうになる意識の中、鞄からエリクサーを出すと俺はその場に倒れた。
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