第51話

 口の中に溢れる鉄の味に意識が覚醒する。


「ゲホッゲホッ! おえぇっ!!」


 すぐさま体を起こし喉の奥に残る何とも言えない液体が出て行くとゆっくりと息を吸う。


「ふぅ~……」


「リッツさん! 無事でよかった……!」


「ワン!!」


 目の前ではティーナが涙を流しアンジェロが俺の下に走ってくる。


 無事でよかったって――あれ、俺死んだはずじゃ。


 アンジェロを撫でながらゆっくりと記憶を思い出す。体を見ると服の真ん中が裂け真っ赤に染まっており、俺の記憶が正しいことを物語っていた。


「リッツ様、お目覚めですか」


「あぁニエか……っておわあぁ!? ど、どうしたんだその顔!」


 笑顔を見せるニエの唇は真っ赤に血で染まっており、首元もよくみると真っ赤だ。呆気に取られているとティーナがニエにハンカチを渡す。


「ニエさんは、リッツさんが薬を飲める状態ではなかったため口移しで飲ませたのです」


「血が溢れてしまってなかなか飲んで頂けなかったので、少々強引になってしまいましたね」


 ニエは顔の血を拭くとティーナに礼を言った。


 …………。


「あらっ? リッツ様、大丈夫ですか。血が足りないんでしょうか? もう少し横になっていたほうがいいのでは」


 ニエは自分の太股を軽く叩いた。


「だ、大丈夫だ。ちょっと混乱してたというか、その、ありがとう。助かったよ」


「そうですか、残念です」


 変わらない笑顔に冗談交じりの本音、だが今度ばかりは誤魔化されるわけにはいかない。


「……ニエ、君は俺が助かることを知っていたな?」


 ニエの青い瞳が俺をジッと見詰める。


「はい、私は知っていました。リッツ様が倒れることも、そして助かることも」


 今度は隠さない……ということは――。


「神獣と君のこと、そして奴の正体、教えてもらえるな?」


「はい。ただしティーナさんにも聞いて頂きます。そして話を聞いたら最後、運命からは逃れることができません」


「わ、私も……ですか?」


「人は配られた選択によって運命が決まります。もし、何もなかったと平穏な日々を送りたいのであれば話を聞かないことをお勧めします」


 いきなりここで決めろというのはさすがに酷だろう。


「ニエ、話をするなら宿屋に戻ってからでもいいはずだ。ティーナにも考える時間をあげたほうがいいだろう。面倒だが……お兄さんも屋敷に送ってやんなきゃいけないしな」


 ニエが頷くとティーナのお兄さんの後を追う。先回りし魔物を警戒したが一切気配がなく、途中で捜索隊に合流すると夕暮れ前には屋敷へ戻ることができた。

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