第101話
「や、やった……。俺たちは国を守ったんだ!!」
最後の魔物を倒した兵が声を上げると周りが歓喜に沸いていく。
魔物は広範囲にわたり押し寄せたが、俺が最前線で抑え、仕留めきれなかったり逃した分は後続の各小隊とアンジェロで迎撃しなんとか乗り切ることができた。
「リッツ様、様子がおかしいですね」
「あぁ、いくらなんでもこの程度で国を落とせるなんて思えない」
最前線では俺が倒した魔物、後ろには歓喜に沸く兵と倒した魔物が大量に転がっている。
ニエが視たことだってまだ起きていない、どうなって起きるのかはわからないが『予知夢』は絶対だ、ここからが本番なのは間違いないだろう。
「数が多いとはいえこの程度の魔物に時間を掛けるとは、やはりスキルを持たぬお前らではこれが限界のようだな」
「なんだと、前線を見てからモノを言え! ここの倍以上の魔物を先に倒していたからこの程度で済んだのだ」
「はっはっは! それくらいスキルさえあれば誰でもできるのだよ。それが力なのだ」
後方では何やら騒がしいが貴族が揃って静かというのも変な気がするから問題はないな。
「ここにいても仕方ない。とりあえず一旦戻るとするか」
「あれは……リッツ様、魔物が動いてます!」
ニエが隊長と貴族の近くに倒れている魔物を指差す。ほんの少し動き出したかと思うと一気に肉腫が生え息を吹き返した。
「ふん、仕留め損ねるとは……。これだから兵など当てにならんのだ」
「待て! そいつに手を出すな!」
俺の声が聞こえないのか貴族の一人が剣を抜くと魔物を切る。気味の悪い雄叫びをあげると魔物は切られ倒れたように見えたが、肉腫が暴れると傷口が塞がっていく。
「な、なんだこいつ!? ――えぇい我がスキル『剛力』の前に切れぬものなどないのだ! 回復できぬまで切り刻んでくれるわ!!」
「あのバカ! ニエ、アンジェロが戻ったら周りの確認を頼む! 俺はあいつをどうにかする!」
大急ぎで向かうが剣を振り回していた貴族は早々に息を切らし、目の前では魔物がすでに再生していた。
それを筆頭に転がっていた無数の魔物から肉腫が生えていく。地獄のような光景になるなか、肥大化した肉腫が貴族目掛け振り下ろされると間一髪で隊長がそれを受け止める。
「ぐおぉぅっ……何をやっとる! これくらい避けぬか!」
「バ、バケモノだ……みんな殺される……逃げろおおおおおおおお!」
貴族たちは逃げ出し、立ち上がり始めた魔物に兵は狼狽える。俺は隊長が抑えていた魔物を殴り飛ばすとすぐに周りをみた。
「いったい何が起きておる!?」
「詳しい説明はあとだ。あいつらが動き出す前に兵を退いてくれ!」
「わかった――全隊下がれ! 決して魔物どもに手を出すな!」
兵は誰も手を出さず、すぐに下がり始める。
とりあえず兵を下げはしたが……。
「――して、この危機的状況をどうする?」
「こいつらはあの肉腫を潰さない限り死なないし止まらない。どうにかできるならしてやりたいが、さすがにみんなを助けながらは無理だ。俺がここで食い止めておくから兵を連れて逃げてくれ」
ニエとアンジェロが戻ってくると追加で悪い知らせを持ってきた。
「リッツ様、速度は遅いですが奥からも魔物が来ています」
「マジかよ……。アンジェロ、合図したら浄化を頼む。そこから一気に潰すぞ」
移動するとアンジェロが咆哮し俺はすぐさま近くにいた魔物を倒す。場所を移しもう一度アンジェロが咆哮すると隊長が動きだした。
「弱点は肉腫だ! 全員、攻撃のタイミングを間違えるな!」
隊長に続いた兵たちは魔物一体に複数でかかっているがなんとか仕留めきれている。
これならなんとかなるかもしれないと、次に移動しアンジェロが吠えたとき、新たな遠吠えが響きアンジェロの浄化を打ち消した。
声がした場所には真っ黒な神獣と少年がいた。
「くそ、あいつら……!」
遠くに見えていた魔物もすぐそこまで迫ると大きな物体が横切った。
目の前に現れた船から見知った顔が飛び降りてきた。
「はーはっはっはっは! リッツよぉ、さすがのお前もピンチってやつだな!」
「よく持ちこたえてくれた」
「みんな……来てくれたんですか!?」
マーリーさんとクラーツさんに続き、ウェッジさんとリヤンも続いて降りてくる。
「話は聞いている。マーリー、クラーツ、お前らは後ろの小隊の援護だ。誰一人死なせるなよ」
「おう、いくぜクラーツ!」
二人が走り出すとウェッジさんは黒い神獣のいる方を一度みた。
「ニエちゃんはアンジェロと一緒にこの場で俺に協力してくれ。リッツ、お前はリヤンと一緒にあいつを止めてこい」
「ウェッジさん、あっちの神獣を止めるまで待ってください。あいつがアンジェロの浄化を邪魔するんです」
「それは大丈夫だ、団長がすでに向かっているからな」
「ッ!!」
「あの女からしたら神獣なぞ犬っころ同然だろう。リッツよ、悪いが兄を止めるため力を貸してもらうぞ」
神獣を犬扱いって……師匠ならやりそうだな。
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