第100話 ミレイユサイド

 アルフレッドがミレイユの身体を蹴り飛ばし、体制の崩れたミレイユに閃光のような突きが刺さった。


「――何っ!?」


 ミレイユの腹部は出血していたが手はアルフレッドの腕をしっかりと掴んでいた。


「これを待っていたわ」


 ほんの少しアルフレッドの姿勢が崩れた瞬間、ミレイユの拳がアルフレッドを地面に叩きつける。


 床に亀裂が入りアルフレッドは口から血を吐くと起き上がることはなかった。


「今度こそ、私の勝ちね」


「ごほっ……俺の速さを越えるとは…………」


「さぁ答えなさい。あなたはいったい誰と何を企んでいる?」


「……聖者が世界を変える。穢れある、元の世界へ……ごほっごほっ!」


 アルフレッドの口から大量の血が吐き出されるがミレイユはジッと見つめる。


「ヤツは不死だ、誰も止めることはできない……穢れある世界を生き残れるのは不死者だけ……」


「そのためにあるかどうかもわからないエリクサーを探していたわけ?」


「不死の霊薬か……俺は騙されていたのかもな。だが、世界を変えるにはこの命では短すぎる……そう思うだろう?」


「そんなものとっくの昔に考え直したわ。この限りある命でやれるだけのことをやる、それが私の成すことよ」


「ふっ…………聖者は魔物を蘇らせたといっていた。今頃【エナミナル】は魔物が押し寄せてるはずだ……」


 顔色悪く焦点の合わなくなってきたアルフレッドは光差す窓をみた。


「先に逝ってお前の活躍を見守るとしよう」


「……わかったわ。これで楽になりなさい」


 ミレイユは小さな瓶を取り出す。アルフレッドの目には翡翠色の液体が映っており、抵抗する力もなくアルフレッドはその液体を飲み込んだ。


 アルフレッドの体が光に包まれると傷が癒されていく。


「な、なんだこれは……ミレイユ! いったい何を飲ませた!?」


「私の愛弟子がくれたお守りよ。どう、生き返った感想は?」


「誤魔化すな! 俺の怪我は手遅れだったはずだ!」


 アルフレッドは体を起こすと怪我一つ残さず消えている自分の身体を調べる。それを見ながらミレイユはほんの少しだけ口元を緩めた。


「これが本物のエリクサーよ。ありとあらゆる怪我や病気を治す――ただそれだけのすごい回復薬、もちろん不死になることもないわ」


「まさか手に入れていたとは……」


「皮肉なものね、エリクサーの話がなかったらこれが作られることもなかったんだから。さて、無傷のまま連れて行っても誤解されるだろうし」


「……ッ!!」


 ミレイユは立ち上がったアルフレッドを殴り飛ばすと、アルフレッドは教会の扉を破り外に転がっていった。


「団長、無事だったか。その傷――」


「この程度平気、時間をかけすぎたからすぐに移動するわよ」


 ウェッジたちが頷き側に停めてある船に向かう。


 船の前ではリヤンとシルエが立っていた。


「こいつも行くといってるがどうする」


「国が関わるのならば私も力になれるはずだ」


「そうねぇ……私たちじゃ限界もあるしお願いしようかしら」


「団長、そんなこといって巻き込めるヤツは全員巻き込もうとか思ってるんじゃ――痛ッ!!」


「団長、傷が開きます」


 クラーツは悶えるマーリーを無視してミレイユに回復薬を渡す。


「バカはほっといて出発の準備だ。リヤン、俺たちは上空から探すから操縦を頼む」


「このリヤン船長に任せるがいい、すぐに見つけてやる」


 船に乗り込むとリヤンは自分用に作った段差に立つ。全員が乗り込むと船は大空を舞い上がり上空に消えた。

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