第14話

 俺たちは城へ着くと客室に案内され、王様の会議が終わるのを待っていた。


「ねぇ……やっぱりいかないとダメ?」


「ダメに決まってます」


「そうだ! 代わりにエレナさんがいってきてよ!」


「私が行ってどうするんですか、馬鹿なことを言わないでください」


 なんで人助けした俺たちが呼ばれないといけないんだ。……もしかして、疫病を流行らせた犯人だと仕立て上げるつもりか!?


「きゃっ……やったな~!」


「ワフッ!」


 ティーナとアンジェロは室内を楽しそうに駆けまわっている。


 どうにかしてここから脱出――とはいかないまでもティーナを守らねば。


「お嬢様、もう少々お静かに。淑女たるもの、寛いで良いといわれても静かに待つものです」


「はぁーい、アンジェロおしまい!」


 しばらくすると部屋の扉がノックされる。


「皆様、ご準備が整いましたので謁見の間へお越しください」


「あ、あの、エレナさんとアンジェロも一緒に連れてっていいですか?」


「それでしたら、お連れ様もご一緒してよろしいとお聞きしておりますので構いません」


「ありがとうございます! これでまずは一安心だな!」


「リッツさん……私に恨みでもあるんですか……」


 謁見の間へ入ると若い青年が椅子に座っている。


「陛下、噂のお二人をお連れ致しました」


「うむ、ご苦労であった」


 この男が王様だと……。


 青年は立ち上がり数歩進むと顎に手を当てた。


「――まずは自己紹介だったか。この国はカルサス、そして私が王のシリウスだ」


 エレナさんから小さく咳が飛び、ティーナが慌てて膝をつく。


「わ、私はティーナと申します! お会いできて光栄でございます!」


「リッツです、この度はおよびいただきありがとうございます」


「楽にしろ。口調もある程度なら崩れても構わん、飾っただけの言葉など何も響かぬからな」


「は……はい」


 立ち上がった俺たちを王様は鋭い目でみつめる。


 周りの側近たちも何も言ってこないし、楽にしていいというのは本当みたいだ。


「それじゃあ王様、さっそくですが俺たちを呼んだ理由というのは?」


「ほう、貴様は肝がすわってるようだな。良いことだ」


 いやあなたが楽にしろっていったんですけど……。


「それでは本題に入ろう。お主たちが街の疫病を治したというのは間違いないか?」


「は、はい! リッツさんが薬をお持ちだったため、そちらを使わせていただきました!」


「リッツよ、その薬はまだ残っておるか」


「はい、今出しますね」


 俺が鞄に触れると側近が反応したがすぐに王様は制止した。


 こんなところで武器なんか出すわけないでしょうが! あんたらよりよっぽど王様のほうが肝が据わってるよ!


「――これです」


「ほう、それが医者ですら投げ出した病の薬……お主はそれをどこで手に入れたのだ?」


「自分で作りました」


 その瞬間、周りの側近や兵がざわめきたつ。


「ま、まさかそんなことができるわけ……」


「やはり聖人だという噂は本当だったんだ……」


 しまった、俺を陥れる罠だったか!?


「静かにせい! リッツよ。それが偽りではないと、証明できるのであろうな?」


「証明って……王様も飲んでみます?」


 味は悪くないと思うし飲めばわかるだろう。


「お、王様! リッツさんは嘘などいっておりません、私がこの身をもって証明致します!」


 ティーナが薬を奪い飲もうとする。


「そう急くな。その薬がどうやって作られたものなのか、知らねば王としての示しがつかぬのだ。――そうだな、その薬の製造方法はどこで学んだ」


「スキルと、あとは知識ですね。子供の頃、両親が薬屋をやっていて手伝いをしてたんです」


「ふむ……スキルに関して、教えてもらうことはできるか?」


「俺のスキルは『草』といって、すべての草に関わることがわかるんです。例えば今回の疫病の元、あれはトウカ草が群生化し発生した毒素が原因ですから、野草の豊富なこの国じゃ何度か同じような症例があったんじゃないですか? たぶん、重症化することがなかったから薬も作られてなかったんじゃないかと思いまして」


「なんだと……?」


 王様はピクリと反応するとその鋭い目で俺を睨みつけ、側近や兵も先ほど以上にざわつく。


 あれ、変なこといった? それくらいみんな知ってるでしょ……。まさか知っていてあえて俺に説明させたのか!?


「皆の者、この部屋から出ておれ」


「陛下! せめて我らだけでも話を――」


「ならん! これより先は国の根源に関わる可能性がある。いくらお主らとておいそれと聞かせるわけにはいかぬ」


 側近や兵が出ていくのに合わせて俺も回れ右をする。


「リッツさん、あなたは出ていかなくていいんですよ」


 ――ちっ!


 俺を止めたエレナさんはすやすやと眠りについたアンジェロの横から一歩前にでた。


「王様、付き人である私はここにいてよろしいのでしょうか?」


「構わん、民の話によればお主らはまだこの国にきて間もないと聞いておる。それにその獣……信じられんが神獣の気配がする。何があったのかすべて話してもらうぞ」


 こりゃあ正直に話すしかないか……。


 俺は追放されてこの国にやってきたところから順を追って説明した。

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