第122話
ハリスから報告を受けた俺達は教会に向かった。いつも通り裏口から入りシスターに案内され扉の隙間から中を覗く。
そこには、椅子に座らず背筋を伸ばしたままの、巨躯の女性が立っていた。使用人と同じエプロン姿だがしわ一つなく、長距離を歩いてきたとはいえないほど綺麗だ。
師匠……いや、俺くらいあるな。
「リッツ様、なんだか強そうな方ですね」
「ワフッ」
「あぁ、これなら期待できそうだ」
「しかしリッツよ、必要なのは掃除や家事の能力だろう」
「そこはみてみないとわからないけどギルバートさんの紹介なら間違いないはずだ。リヤンの負担も減ればそれで充分だしな」
みんなで話をしていると女性はこちらに目を向けた。
「突然お声掛けして申し訳ありません、私はキャレットと申します。こちらで使用人の募集をしているとお聞きしたのですがどなたか存じておりませんか」
「俺が受付を担当させてもらっているリッツだ。ほかにいるのは――気にしないでくれ」
「かしこまりました。ところで、雇用試験はすでに始まっておりましたか?」
「いいや、今日は確認だけだ。試験は後日担当者をつける。今日は宿を借りて休んでくれ」
俺は金貨を取り出すとキャレットに渡す。
「まだ雇用もしていない使用人に金貨とは。随分と余裕のあるお方なのですね」
「単に使い道がないだけさ、受け取ってくれると俺としても報告しやすいからな」
「かしこまりました。それでは私は宿にてご連絡をお待ちしております」
キャレットは地面に置かれている自分の荷物を持つと静かに教会を出て行く。
俺たちはファーデン家にいきキャレットさんと出会ったことを報告した。翌日、すぐにエレナさんから手紙が届いた。
◇
「ご無沙汰しておりました。ギルバート様、メリシャ様」
「久しいな、キャレットよ。元気にしておったか」
「しばらく見ない間に綺麗になったわね~」
「長らくお会いしていなかった私に推薦状を頂き感謝しております。ですが……今度は私でも、仕えることができるお方なのでしょうか」
「はっはっはっはっは! それは自分の眼で確かめてみるといい!」
「そうね、それが一番よね。さ、みんなが待ってるわ。行きましょう」
お昼前にファーデン家についた俺たちは庭へ向かうと、机が並べられ使用人たちに混じって、ティーナが椅子に座っていた。
俺たちに気付いたティーナは手を振る。
「皆さん、こちらでーす!」
「ワン!」
「やぁみんな、元気にしてた?」
「もちろん! 聖人様も随分と忙しかったようですな!」
「あら、ニエさん――そのなんともいえない表情の髪飾り、もしかしてアンジェロですか?」
「ふふふ、リッツ様の力作です! 初めてもらったプレゼントなんですよー!」
「きゃー! ついに進展があったんですね! そういえば髪飾りの意味って――――」
わいわい騒いでいるとエレナさんがやってくる。
「お待たせ致しました。キャレットさんの試験をこれから始めたいと思います」
「試験って、いったい何をするつもりなんだ?」
「家事や掃除などの基本はもちろん、対応力をみます。とりあえず皆様にはお食事をいつも通り召し上がって頂ければ結構です」
なるほど、前にやっていた食事会みたいなもんだな。
簡単な説明が終わるとエレナさんはキャレットさんを連れ、バトラさんと共に食事を運んできた。
「キャレットの来訪を祝し、乾杯!」
ギルバートさんの合図によりキャレットさんの試験は開始された。
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