第75話

 ハリスさんの仕事っぷりは予想以上に凄かった。村で手の空いてる人たちを集めるという条件から収穫前の暇な農家を選び出し、その中で貴族を話題に出してもほとんど関心がなさそうな人たちを選んでいた。


 賃金に関しても役割によって決め、労働期間は収穫が始まる前の準備期間も含めて短く設定、複数の宿を数部屋ずつ貸し切る徹底ぶりだった。


 おかげで船の周りはどんどん整備されていき俺は畑に集中することができている。


「こらアンジェロ! サボるんじゃない!」


「ワフッ?」


「リッツ様、こちらの水撒きは終わりました」


「よし、このくらい広げておけば教会の分は十分だろう」


 リヤンはなんだかんだ手伝ってくれるし、ニエの手際もいいおかげで進むのが早い、もう少しかかると思ったがあっという間だったな。


「みんなありがとう。そろそろお昼にするから先に身体を洗ってきてくれ」


「ふぅ~明るいうちから汗を流すというのもいいものだ」


「ははは、それも一つの楽しみかもしれないな」


「それじゃあ私はリッツ様と片付けてから入るのでリヤンさんは先にアンジェロと一緒に」


「お前も行ってこい。リヤン、ニエを頼むぞ」


「……お主らはいつまで経っても懲りないな」


 片付けも終わり昼食を済ませると恒例のアレがやってくる。


「リッツ様、本日の午後のご予定はございません」


 そうだね、あるわけないね!


「ありがとうハリス」


 俺が手を挙げるとハリスが下がる。


「……リッツよ、毎回思うのだがこれは必要なのか?」


「もちろんさ。俺たちが忘れているスケジュールがあるかもしれないからね」


「まぁなんだっていいがいつ動きがあるかわからんのだ。ちゃんと備えておけよ」


「任せておけって、空いた時間を使ってエリクサーやいろんな薬を増産したからな。人手さえあれば国一つは救えるぞ」


 初めはリヤンの兄を探そうと考えたがあの神獣がいる限り行動範囲がわからない、だったら今は騒ぎが起きるのに備えるしかないという結論になっていた。


 そのおかげで草をゴリゴリしたり素晴らしい時間を過ごせたわけだ。


「時々部屋に籠って何をしているかと思えば……いや、そのくらいは覚悟しておいたほうがいいかもしれない」


「――だろ? 穢れをうつされた人だって救えることがわかったんだ」


「あのねぇ、前にも言ったけど私たちは不死の呪いがあるからなんとかなってただけで、本来、穢れは生命そのものを栄養としているから一度でも穢れた者は助からないの。それなのに当たり前のように回復させて……古い時代にエリクサーがあったら世界は変わってたかもしれない……」


「そんな大層なことをいっても所詮は回復薬だぞ。死んだ人は蘇らせられないし、不死にもならないからな」


「そう言い切れるのがおかしいって――まぁいいわ。それで今日はどうするの?」


「ん~最近鍛錬をしていなかったからみんなに混ざろうと思う。この服の性能も見てみたいし、今日は城の鍛錬場を借りてるはずだから模擬戦をやってるかもしれない」


 服の限界を知っておかないといざというとき危険だからな。


「リッツ様の活躍をみれるのですね」


「それは残念ながらないだろう。師匠に色々とみてもらう予定だから、ボコボコにされるかもしれん」


「それでも立ち上がるリッツ様、素敵です」


「できれば観ないでほしいんだけど……まぁ死にかけたところを見られてるし今更か」


「はい、今更です!」


「リヤンはどうする?」


「せっかくだし私もついていこう。『紅蓮の風』がどれほどのものか見てみたい」


「よし、それじゃあ俺たちは出掛けてくるから何かあれば頼んだよ」


「かしこまりました」


 ハリスに見送られ俺たちは城の鍛錬場へ向かった。扉の奥からは相変わらず悲鳴にも似た声が響いていた。

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