第16話

「だーかーらッ! お願いですから受け取ってください!」


「もう約束通りもらったって。ほら、このとおりな」


 頬っぺたを膨らませているティーナに一枚の金貨を見せる。


 もう何回目だろこれ……。


「確かにあのときはそういう約束でしたが、リッツさんがいなければ結局何も解決できないままだったんですよ。それに私が逃げたって事……秘密にしてくれて……」


「俺はたまたま倒れていたティーナを見つけただけだ。何もした覚えはないよ」


「またそうやって誤魔化してー!」


 ティーナは拳を振り上げる。


「お嬢様、淑女たるもの拳を振り上げていいのは悪漢くらいです。リッツさんはこう見えて聖人ではあっても悪漢ではないのですよ」


「ワン!」


 散歩から戻ってきたエレナさんはアンジェロを撫でまわす。


「ねーエレナからもいってよー」


「そうですね……ならばこうしてはいかがでしょう。リッツさんがお困りのとき、お嬢様が力になってあげるというのは?」


 エレナさんはちらりとこちらにも目線を送ってくる。


「なるほど、それならいい案だ! よしそうしよう!」


「あっ、リッツさんちょっと!」


「さ、お嬢様。今日は色々と日程が詰まっておりますので覚悟してください」


「えぇ~~~!?」


 ティーナの声を背に俺は屋敷へ戻るとギルバートさんを訪ねた。


「先日お伝えした件、どうなりました?」


「あぁ、面白い報告があがっているぞ。お主の作ったポーションは通常の物よりも三倍……いや、もしかするとそれ以上の効果がある。そしてさらに、同じ作り方で製作したはずがどうしても同等のポーションを作ることはできなかった」


「ということはつまり…………」


「売りにだせば市場が崩壊するどころか、この国は失業者で溢れかえるだろうな! はっはっはっは!!」


 俺ができそうなことってこれくらいしかないんだけど……まじかよ……。


 盛大に笑っているギルバートさんは書類を置くと腕を組み直した。


「提案があるのだが、見たところお主は相当な鍛錬を積んでおるな。そこで一つ、ユリウスに稽古をつけるというのはどうだ? もちろん報酬は出そう」


「失礼ですが俺は武器の扱いが下手でして……」


「構わん。基本となる身体の動きと体力作り、あとは適当に指導してくれればそれでいい」


 ん-このままじゃ仕事もないしなぁ、受けるだけ受けてみるか。


「それじゃあ週に二、三度ほど都合を合わせ指導する形でいいでしょうか?」


「うむ、鍛錬の内容はすべて任せる。もし息子が泣きごとを言うのであれば殴っても構わん」


 エレナさんといい俺をなんだと思ってるんだ。


「そんなことしませんよ、来週あたりからでいいでしょうか?」


「あぁ、空きのある日がわかり次第連絡する。よろしく頼んだぞ」


 ギルバートさんと握手を交わし部屋を出る。


 さーてあとは夜に備えて……アンジェロと昼寝でもするかな!







 その日の夜、部屋で準備をしているとノックが鳴った。


「リッツさん、そろそろ準備はできましたか」


「二人共その格好は……?」


「今日は王様に教会へ行けと言われた日じゃないですか。さ、早く準備して向かいましょう」


「ちょ、ちょっと待て! さすがにティーナが夜に出歩くのはまずいだろ。それにファーデン家のみんなだって心配する!」


「それは大丈夫です。皆さまには、リッツさんから夜にしか咲かない野草を教えてもらうと話し快く了承を頂けましたので!」


 なっ……いったい誰の入れ知恵――。


 エレナさんをみると顔はこちらを向いているが目線がずれている。


「……何をしてるんですか。これ以上関われば危険な目にあうかもしれないんですよ」


「そのときはリッツさんが守ってくれますよね?」


「そんな目で見てもダメです。二人は大人しく屋敷にいてください」


「ま、待ってください! リッツさんだって一人じゃ危険ですよッ!」


「そうはいってもなぁ」


「リッツさん、お嬢様は恩返しがしたいのです。無理はさせませんのでどうかお願いします」


「仕方ない…………アンジェロ、留守番を頼んだぞ」


「ワフッ!」


 屋敷をでた俺たちは教会に着くと扉をゆっくりと開ける。


「お邪魔しまーす……」


 綺麗に並べられた椅子の奥では小さな灯りが点いており誰かが座っていた。


「よぉ、やっときたか」


「……お、王様!?」


 ティーナが声をあげると王様は咄嗟に口の前に人差し指を立てた。


「ここではシリウスと呼べ。言葉遣いも普通でいい」


「わ、わかりました……し、しかしどうしてシリウス様がここへ……」


「それは後だ。トウカ草についてだが、群生地があったであろう場所はすでに消されていた」


「ってことはやはり犯人が……何か心当たりはないのか?」


「それがさっぱりだ。これでも、恨みを買うようなことをしてきたつもりはないのだがな」


 うーん、確かに街や村の人たちは王様のことを慕ってたし、多少の不満があったとしてもここまでやるなんて明らかにおかしい。


「貴族の間でもシリウス様の評判は良いですし、私としてはどこかの国が関わっているくらいしか思いつかないのですが」


 頭をひねりながらティーナが恐ろしいことを言い出す。


 他国が関わってるって……冗談じゃすまないから。


「ほう、なかなか勘がいいじゃないか。ここに来てもらったのはそれについてだ。この教会には私の父――先代国王が隠したモノがある。そしてそれはきっと……リッツ、君に関わることだ」

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