第71話

 これで二度目……いや、三度目だっけ?


 城の客室、椅子に座った俺の隣でニエが座り、向かいの椅子では仏頂面のリヤンが足をぷらぷらさせてアンジェロと一緒に座っている。


 そんな俺たちの周りを何週しただろう、腕を組んだシリウスは無言でずっと歩いていた。


「なぁ、シリウス――」


「リッツ、そう慌てるな。時間はたっぷりとある……。そうだな、君たちが泊まるための部屋を準備してもいいだろう」


 ぶつぶつとそう言ってシリウスはまた歩き出す。


「なぁリッツ、本当にこやつがこの国の王なのか?」


「そういうこと言うなって! 打ち首になったらどうすんだ!」


 足をぷらぷらさせたリヤンがとんでもないことを口走り、俺はできるだけシリウスに聞こえないよう願いながらリヤンに声を放つ。


 沈黙が続き背後に立ったシリウスの手が俺の肩に止まる。


「さて、私は何から聞いたらいいと思う? 服を作りにいったと思ったら子をつくって戻ってきたことか? それとも海を渡ったお前がなぜか空飛ぶ船と共に空から帰ってきたことか?」


「はははは、じょ、冗談がうまいなぁ。リヤンは俺の子じゃないよ。前に俺を襲った少年がいただろ、そいつの妹だよ」


 その瞬間、俺の肩がミシミシと音を立てた。


「痛だだだだだ! ちょ、シリウス!?」


「……なんでお前は、服を直しに行っただけなのに殺されかけた相手の妹を連れて空から船で戻ってくるんだ!!!!!!」


「痛ーーーシ、シリウス落ち着いて! 肩が、肩がもげちゃう!!」


 シリウスは深い溜め息をつくと肩から手を離し椅子に座った。


「いってぇー……」


「リッツ様、大丈夫です。肩はちゃんとくっついてます!」


 ニエが拳を握りガッツポーズをしてくる。


 何、その乗り切りましたねって顔……全然乗り切れてないよ……。


「貴様のせいで街は大騒ぎだ。とりあえず兵には、聖人だからそういうこともある、と広めろように言った。というかもうそれ以外に方法はない」


 それは仕方ないな、今回ばかりは聖人に頼ろう。


「――それで、船はどこに置いてある?」


「俺の屋敷の後ろに森があるだろ、そこに置いてるよ。一応目隠しになると思って」


「ふむ、あそこであれば人目にもつきにくいし幸いお前の私有地だ、人払いも問題ないな」


「お主……まさかあれを奪おうと思っているのではないだろうな?」


 足をぷらぷらさせながらリヤンはシリウスをみると緊迫した空気に包まれる。


「私はこれでもこの国の王だからね。民の安全のために危険性がないのか把握しておく必要があるんだよ。君のおもちゃを奪ったりはしないから安心してくれ」


「どうやら王としての矜持は持ち合わせているようね。そのくらい臆病なほうがこの国の民も安心できるわ」


 お~二人の間になぜか火花がみえる……。


「リッツ、この少女は少年の妹と言っていたが普通ではないな?」


「あ、やっぱりわかる? リヤンは色々あって不老不死なんだ。だから俺たちよりもずっと年上で、ニエのご先祖様にあたるくらいかも」


「年寄り扱いしないで。私と兄はいわば時が止まったままのような存在、いくら長生きしてると言っても嗜好は子供のときのままなんだから」


「そういっても子供扱いだって嫌なんだろ? その見た目じゃあしょうがないって、どっちかは諦めなきゃ」


「んーそうはいってもねぇ」


「子供のふりをしたほうが周りから変に目を付けられたりしないんじゃないですか」


「ニエの言う通りだ。その見た目なら誰だって子供だとしか思わないし、面倒事に巻き込まれないですむと思うが」


「仕方ない、大衆の面前では我慢しよう」


 俺たちの話がまとまると静かだったシリウスが口を開く。


「……リッツ、やはり【ザーフニーゼン】であったことを全部話せ。長くなるだろうから君たちは帰ってもらっていい。ちゃんと明日の朝までには返す」


 シリウスが促すとリヤンは椅子からぴょんと降りる。


「ここにいても退屈だからな。ニエよ、少し街に寄ってから帰ろう」


 アンジェロが椅子から降りリヤンの後ろをついていくとニエが立ち上がる。


「それではリッツ様、お夕食は準備しておきますね!」


「えっ、ちょっと!?」


 シリウスによる半ば強制の尋問が終わったのはちょうど日付が変わったときだった。

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