第2話
「王様、これがエリクサーになります」
俺は綺麗な翡翠色の液体が入った瓶を渡した。
王様は少し怪しげな表情でポーションを受け取ると、なぜか一気に飲み干す。
チェック済みとはいえまさかその場でグイッといくとは……よっぽどどこか悪かったのかな。
しばらくすると王様の体は柔らかい光に包まれた。
「…………これは本当に不老不死の薬なのか?」
「……はいっ?」
何か勘違いしてるのかな……でも確かにエリクサーを作れって言われたし……。
王様に進言するというのは気が滅入るが、こういうときはちゃんと伝えることが大事だって、師匠は口を酸っぱくして言ってたしな。うん。
「――――失礼ですが王様、エリクサーにそんな効果はありませんよ?」
俺の言葉を聞いた王様はポカーンと口をあけたまま固まっていた。
「エリクサーって不老不死の薬じゃなくて、ただの凄い回復薬ですよ?」
「なっ……なんだとおおおおおお! 貴様は儂を愚弄するのかあああああああ!!」
「ええええ!? い、いや、だってエリクサーを作れって……頑張ったのに……」
「偽物を寄越すとはこの不届き者が!! えーい貴様なぞ追放だ! 本来ならば打ち首にしてやるところだがあやつの顔も立てねばならん、師に感謝しろ! 貴様は金輪際わが国【ブレーオア】に入ることは許さん! 衛兵! いますぐこの者をつまみ出せ!」
激怒する王様の命令によって俺は城から追い出されるどころか、問答無用で国から追い出されてしまった。
◇
「おらさっさと降りろ! 命があるだけ感謝するんだな、この嘘つきめ」
乱暴に馬車から追い出されると一人ポツンと佇む。
嘘つきって……あれは紛れもなくエリクサーなのに……はぁ……さすがに師匠は話せばわかってくれるだろうけど……これからどうしたもんかなぁ。
――仕方ない、こんなときは前進あるのみだ。
お、あそこに生えてるのは香草……自生しているとは珍しい。
ん? あれは薬草……あそこにも……あんなにたくさん!
「く、草がいっぱいだあああああああ!」
――いっぱいだああああ!
俺の声が響く。
あれはブドの実! あっちはトウカ草!
山のほうにもまだまだありそうだぞ。
俺は足取り軽く緑生い茂る山の中へ入った。
――――――
――――
――
いかん、すっかり夜だ……楽しいときというのはなぜこうも時間が経つのが早いんだ。
…………寝るか。
適当な場所を見つけ寝転ぶと満天の星がみえる。
師匠は今頃どうしてるかなぁ……騎士団のみんなに八つ当たりしてないといいけど…………まさか俺を探しにきたりは――。
何かの気配を感じると薄っすらと光るモヤのようなものがいた。
「誰かそこにいるのか?」
モヤは獣に似た姿となり、何度もこちらを振り返る仕草をする。少しだけ近づくとその分だけゆっくり離れた。
……ついてこいって言ってるのか?
周囲を警戒しながら追うとモヤは消え、傷だらけの犬のような巨獣が横たわっていた。
「お、おい、大丈夫か!?」
動く気配がない……横にいるのはこいつの子どもかな、可哀想に……。
「――くぅ……ん……」
「ッ! しっかりしろ! 今助けるからな!!」
すぐにエリクサーを取り出し子犬へ飲ませると子犬は柔らかい光に包まれた。
「ふぅ……もう大丈夫だ」
「……ワン!」
子犬は立ち上がるとすぐに巨獣の体を揺らし始める。
「お前……そうだな、まだ間に合うかもしれない」
エリクサーを取り出すと大きな口の中へ垂らす。
――頼む、飲んでくれ。
「ワン! ワン!」
子犬が必死に吠えるが翡翠色の液体はそのまま零れ落ちてくる。
「…………すまない、これ以上は……」
子犬は懇願するように何度も俺の服を引っ張った。
「俺には治せないんだ……本当に……すまない……っ」
あのときと同じ……また、俺は助けられなかった……。
溢れ出る涙とともに俺はガクリと膝をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます