第112話 ニエサイド

 リヤンが髪を拭きながら部屋に入ってくる。ベッドに座ったニエは見向きすることなく窓の外をジッと眺めていた。


「――今日はやけに大人しいじゃない。リッツに何か言われた?」


「リヤンさん……。少しお話しませんか」


 リヤンは首にタオルを巻くとニエの隣に座る。


「改まってどうしたの」


「……私、自由というのがわからないみたいなんです。今日もリッツ様がいない間、何をしてようかと考えたんですが、結局何も思い浮かばなくて……。リッツ様にも、もう少しみんなと話したり自分の人生を生きてみろって言われたんですけど、一人になるとどうしたらいいかわからないんです」


「んー……確かに、使命のために生きてきたあなたには、ちょっと難しいことかもしれないわね」


「リッツ様に出会ってからいろんなことをしてきました。でも、一人になるとダメなんです。変ですよね……ずっと一人で生きてきたはずなのに」


 リヤンはプラプラさせていた足を止めた。


「それは間違ってるわ。一人で生きてきたようにみえてただ誰かを頼って生きてただけ。それが頼られる側になったから、どうすればいいのかわからなくなってるのよ」


「頼られる……私がですか?」


「あら、そうでしょう。だって今日の夕食だって張り切っていたじゃない」


「あれはリッツ様が前に食べたおにぎりを美味しいって言ってくれたからです」


「それが頼られてるってことなのよ。今のあなたにはいきなり自由にしろって言っても難しいわ。だったら、頼られる存在になれるよう考えてみればいい」


「でも、そんなことしても『予知夢』が見せる結果は変わらないんですよ」


「あなたのスキルは全てを視せてくる訳じゃないんでしょ? だったら過程はあなたが作るのよ。あなたの作った過程は結果のあとの道をつくってるはず。それが、あなたがあなたとして生きた証になるわ」


「私が私として……」


「ちょっと年寄り臭くなっちゃったかしら。まぁすぐにわかることじゃないから、ゆっくり考えてみなさい」


 リヤンはベッドから降りるとタオルを椅子に掛け自分のベッドに潜り込んだ。


「リヤンさん、ありがとうございます」


「……私たちからすればあなたは犠牲者だからね。罪滅ぼしみたいなものよ」


 ニエは窓から見える星空をジッと眺めていた。

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