第10話 ハイパー鏖殺会②

「一応、俺が集めた腕利きのゴロツキだったんだが......どうだ? 俺の命令を無視して戦った感想は?」


「鬼」


「悪魔」


「怖い......」


「だってよおっかない兄ちゃん」


「なんだろう......すごく心外!」


 乾いた笑いを浮かべながらサイリスはタバコを吸っている。なんでこんなに余裕があるんだ? 


「あとはお前一人だけなのに随分と余裕そうだな」


「ん? ああ、俺は戦わねぇよ? ただちーっとだけお願いがあるんだ」


 サイリスは煙草を吸い切って二本目に手を伸ばしながら、片手で拝むようなポーズを見せる。


「聞いた上でどうするか考える」


「そうしてくれると助かる......サイリスおじさんの頼みってのは、この子はお前らに返そう。二度とその子に手を出さないと誓う。だから見逃してくれねぇか? って事よ」


「俺がお前を見逃したら、人攫いを辞めるのか?」


「それはお前らには関係の無い話だろう?」


 人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、サイリスはゆっくりと煙を吹いている。辞める気は無いって事か......


「トウヤ! アンタの方が圧倒的に有利なんだから、こんな話受ける事無いわ! 適当にボコってどこかに突き出しちゃいましょ」


 プリメーラ? 耳打ちしてるつもりだろうけどそれ多分サイリスにも聞こえてると思うぞ?


 あと、プリメーラの意見を聞くまでもなく俺の心持ちは既に決まっているのだ。


「――――確かに、お前の提案悪くないな。これからお前がどこで誰攫っていようと俺には関係の無い話だからな」


「ちょっとトウヤ!?」


「話の分かる兄ちゃんで命拾いしたぜ......じゃあ約束通り、この子は返そう。良かったな坊主」


「とうやァァァァァ!! 怖かったぁぁぁ!!」


 拘束を外された途端、魔王は俺の足へ抱き着いた。


 まだ会ったばかりの俺にここまで顔を擦り寄せるとは余程心細かったのだろうか、顔は泣き腫らして真っ赤だ。


「よく耐えたな.......ちょっとこのお姉ちゃんと端に寄っててくれるか?」


「えぇ......いやだ!」


 魔王はプリメーラのケツをビシビシ叩きながら露骨に嫌そうな顔を浮かべてる......プリメーラは嫌なのかよ......


「仲が良さそうでおじさん感動しちゃったよ......それじゃあ俺はこの辺で――――」


「待てよサイリス。まだ俺の話は終わってないぞ」


「まだ何か用かい?」


「大ありだね。俺言ったよなァ......お前らにはムカついてるって......そっちでの決着が着いて無いよな?」


「勘弁してくれよ......初対面だぜ? まだお互いの事何も知らないのに因縁もクソもあったもんじゃないだろ」


「大アリだね! 俺さ、お前らが市街地に潜んでると思って家五軒くらい殴り込んでみたんだよ......そしたら? お前ら人気の無い街の端っこにいんじゃん!!? 俺の推理を外させた罰! それをお前には受けてもらう!!」


「完全に逆恨みじゃねぇか......」


「その通り完全に逆恨みだい! でも......これからの壊した家の修理費用とかの事考えるとお前の事ぶっ飛ばしておかないと気が済まないんだよ!!」


「これは逃げても死ぬ気で追ってくるパターンだね......おじさんのこれからのお仕事の為だ。少し頑張っちゃおうか」


 俺とサイリスの間にある空気がずしりと重くなる。


 さっきまでの下っ端とは一線を画す強さ! 


 俺が今までの鬱憤を晴らすように心を踊らせる戦い。


「ちびっ子魔王! よぉーく見ておけよ!! これがお前が超えるべき男の闘い方だァ!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る