第63話 怒級邂逅
ファストレアの東門より数キロの地点では、冒険者達による迎撃体制が敷かれていた。
俺はここで、三界の破壊者とやらを迎え撃つ事にした。
地震と言うより、地面が波打つような感じ。立っているのがやっとって感じだ。
「あれがそうか......間近で見ると山なんてもんじゃねぇな......」
まだ全然距離はあるのに、全体像を見ようとすれば首が痛くなる程見上げなければならない。
高さは......優に2000メートルはあるんじゃないかと思う程にデカい。六本の脚が生えた、歩くミジンコのような見た目をしていた。
「でっっっっ!!!! トウヤ、アンタまじでこれと戦う訳!?」
「ぁ......」
プリメーラは大興奮で俺をバシバシと叩いているし、スーパーおんぶモードのフィンは開いた口が塞がっていない。
「どうしたフィン。ビビってんのか?」
「違う! ただ......」
「ただ?」
「これをお父さんが他の王さまといっしょに作ったってすごいと......びっくりしたわけじゃない!」
そうか、ライの言ってた話がマジならこれはフィンの親父が作ったんだよな。
他の王とか気になる事はあるけど、今はコイツに集中!
「お前の親父の力作、俺が壊すけどいいのか?」
「うん!」
製作者の息子の許可は得た! あとは壊すだけ――――
「オイオイ誰だテメェらは!! ここは冒険者ギルドの最終防衛地点だぞ!......ってファッ急の野郎共か......」
ボロボロの装備に無精髭を生やしたギャグ漫画みたいな顔立ちの男が話しかけてきた。誰だ? ルーク達とは知り合いのようだが......
「誰だ?」
お前も知らないんかい!!
「冒険者ギルド! ファストレア支部所属のソザウ様だ! 化け物退治は俺たちが総力を挙げてようやく可能な仕事だ! 人間の犯罪者にしかデカい顔出来ない半グレ警官共はお引き取り願おう!」
あー、こいつアレか、勝手にライバル視してるタイプのアレか。
「総力って言う割にはなんだか人数少なくない? 20人くらいしかいないわよ?」
プリメーラ、いつも言ってるけど耳打ちなのに声がでかいぞ。
「黙れ小娘ぇ!!」
「こむっ!?」
「ファストレアの冒険者は大森林のヌシとの戦闘で大きく数を減らした! 今は俺たちしかいないが、俺たちだけでも街を守れると証明してみせるのだ! そうすればランクも上がって報酬も増えて......ゲヘヘ」
動機はアレだし笑い方も凄い胡散臭い。
だが街を守りたいという気持ちは本物のようだ。後ろで防衛線の準備をしている人達の目にもやる気がみなぎっている。
言動は典型的な小悪党だが、根は良いヤツらのようだ。
「あー、一応言っておくがお前よりは強いぞ?」
「副長の言う通りでさぁ。あんまり舐めない方がいい」
なんだろう、この二人にフォローされると変な気分がする。
「何ッ!? 旦那......」
ソザウはそんなに気になったのか、俺の顔を覗き込むように見た。自己紹介しておくか......
「どーも。壊し屋のトウヤです。こっちはめが......目が良く見える女のプリメーラ」
「ちょっと私ただ目がいい人になってない!?」
「フィンと呼べ! ひげのおじさん!」
自己紹介で俺達が何者か分かったのか、ソザウは急にビビり出した。
「おっ......お前らまさか!! 訳もなく民家を更地に変えるリーダーのトウヤ......お料理教室の先生を引退させた人数は数知れずのプリメーラ......戦いごっこと称し近所の公園を全て己が縄張りとした幼児のフィン!! お前らあの壊し屋なのか!?」
アンタら二人なにしてんのぉぉぉぉ!?
「よく分かったわね......」
「ひげのおじさん見る目ある」
なんでちょっと誇らしげなんだよ。ドン引きだよ! ルークとライと同じ顔だよ!!
後ろの冒険者達も恐れ慄いている。そんなに俺達有名だったのか......悪い意味でな!! そりゃ依頼も来ねぇわ!
印象を持ち直さねば!
「まぁ! 俺が言えることじゃないが! 過去の事は水に流して今は協力しよう! 目的は違っても一緒に戦ってくれる仲間がいると頼もしいからな!」
これでいいのか? いいんだよな?
「そうだ......そうだぞ野郎共ォ!! この御三方はファストレア最凶の壊し屋だ!! これ程頼もしい事は無いぜ!! そうだよなぁ!!」
「「「ウォォォォ!!!!」」」
冒険者の雄叫びが響く。何はともあれ良い感じに纏まったようだ!
「じゃあ俺は周りの被害考えずに戦うから、上手くやってくれ」
「街に被害が出ないように守れって事ですね!! 分かりやしたァ!! 聞いたかお前ら!!」
「「「応!!!!」」」
よかった。万が一街に被害が出たらまたルークにごちゃごちゃ言われると思ってたから、これは良い感じだ。
街を守るのはプロの冒険者! これで心置き無く戦える――――
俺が三界の破壊者の方を見た瞬間、正面に充填された魔力の塊が今まさに放たれようとしている事に気がついた。
誰も反応出来なかった。
否、反応できた所で着弾地点へ間に合っていれば俺は死んでいただろう。
音速を遥かに超える速度で発射された純粋な魔力の砲弾は、ソザウの少し後方......冒険者が防衛線を敷いていた地点へ直撃した。
耳に金切り音が残り続ける。
快晴だった空は、莫大な煙が雲のように空を覆い、肉片と血の雨が降り注いだ。
「おっ......お前らァァァァァ!!!!」
つい数秒前まで士気と怒声に包まれていた戦場は、遅れて全てを理解した一人の絶叫に支配された。
「ぶっ壊す」
俺は今死んだ奴らと面識があったわけじゃない。親しくもない。どんな人間だったかも、名前すら知らない。
だが気が付いた時には、不思議な怒りが俺を突き動かしていた。
今までに無い感じだ......頭は冷静なのに身体だけが燃え上がっているような......
最前面の脚に向けて渾身の一撃が放たれる。
前脚の核はここだ。
「死ね」
破壊者が凄まじい破裂音と共に爆発した。
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