第64話 壊し屋と破壊者

 轟音と共に破壊者の前脚は大爆発を起こし、トウヤはプリメーラ達のいる所まで吹き飛んだ。


「ぬあっ――――!!」


 なんだ今の殴った感じ!?


「トウヤ凄いじゃない! 一撃で脚を壊しちゃうなんて!」


 すぐさまプリメーラが駆け寄ってきた。


「いや、まだだ......」


 確かに俺は脚の核を攻撃した。核は生物以外のあらゆるものの弱点......なのだが......


「手応えが無さすぎる」


「え?」


 やっぱりな。俺の予想通り無傷だ。


 コーガザスの外殻とはまた違う感覚だ......硬いだけじゃなく、衝撃が完璧に殺されているような。そんな感じだ。


「やっぱり旦那でも破壊は難しい感じですかぁ......」


「ライ! やっぱりって事は、なんかからくりがあるんだな?」


「その通りでさぁ」


 ライの口から伝えられたのは、まだこの世界の仕組みについてよく知らない俺でも分かる超防衛機構だった。


 先ず、全体に魔法と物理両方の衝撃を分散吸収する多重結界が八層張られているそうだ。


 この多重結界が、一層につき内部へ伝わるダメージを約1000分の1にするそうで、それが八層。まぁ生半可な攻撃は入らないと見ていいだろう。


 そしてその奥に待ち構えているのが、液体金属で出来た装甲......これが高速で循環する事で更に衝撃を吸収しているらしい。


「――――ジブンも小手調べに斬ってみたんですが......まさか先に刀の方がオシャカになるとは思いませんでしたぁ」


 そう言ってライはボロボロに刃こぼれし、刃の半分程から折れている刀を見せてくれた。


「どうする......」


 まぁ、殴り続ければ届くだろう。この理由の無い怒りが身を支配する内にぶっ壊してやる。


「――――トウヤ!? さっきの話聞いてたの!? 攻撃が効かないのよ!?」


「効かないなら、効くまで殴る」


 呼吸を整えろ......力を入れ直せ......


「ウォォォォォォォォッ!!!!!!!!」


 先の一撃と遜色ない威力の、更に連撃。


 意識して触れれば分かる。衝撃が放射状に殺される感覚......これが多重結界!! 


 成程! 硬い感じじゃねぇ! 水の入った鉄桶に何重も分厚いゴムが巻かれているような! そんな感覚!!


 理解と感覚を俺の生前知識に落とし込めた。衝撃が分散されるなら!


「突きゃあ良いんだよォォォォッ!!!!」


「トウヤ危ない!!」


 背中のフィンからの危険信号......まずい! 反応が遅れ――――


「......ぐうッ!!!!」


 肩に棘のような物が刺さり、貫通していた。それは俺が殴っている箇所から生えていた。


「トウヤ大丈夫!!?」


 フィンの不安そうな声がよく聞こえる......痛みで意識がクリアになったような感じだ。


「変幻自在の液体金属......それを応用して迎撃とか、製作者はいい趣味してるじゃないの......」


 俺が今できる全力で、俺はこのデカブツをぶっ壊してやる。


 感情を気力に変えろ!!


「やってやんよォォォ!!!!【四木ニニギ流対ジン式格闘術“序”】――――ハアッ!!」


 トウヤの全身を赤いオーラが覆う。


 この肩の棘邪魔だな......


「抜けよこれ......いてぇだろうが」


 ちょっと力を入れたら、金属の棘は粉々に握り砕かれた。


「なんだ、中身は脆いじゃんか! こりゃあ勝ち筋が見えたんじゃねぇの!?」


◇◇◇◇



「オラオラどうしたァ!! 多重結界に頼らねぇと防御出来ねぇのかァ!?」


 コイツの行動パターンが段々と見えて来た。


 一箇所を重点的に攻撃し続ければ、ダメージの有無に関わらず一定の間隔で反撃が飛んでくるような仕組みだ。


 その反撃と言うのが......


「トウヤ! 右から2こ! 左から4こ!!」


 液体金属の装甲を変形させての触手みたいな攻撃!!


「サンキューフィン!!」


 あとはそれを!


「ぉぉぉらぁッ!!!!」


 砕き続ける!!


 流動して衝撃を殺すという液体金属の利点を捨て、ガチガチに固めて攻撃しようとするからこんな目に逢うんだよブァーカ!!


 だが、如何せん質量が莫大過ぎるからこんなのをダメージに入れていいのかも分かんねぇ......それこそ人間がミジンコに小突かれているようなものだろう。


 対ジン格闘術の残り時間も少ない......どうすりゃ良いんだ......


「って考えてる時間が無駄だろうが!! ボルテージブチ上げるぞ!! フィン! しっかり掴まってろよォ!!!!」


 俺に出来る事は! 殴って殴って殴り続ける事のみ!!


「コーガザスの必殺技! 真似させて貰うぜ!!!!」


 コーガザスの必殺技......“崩覇ホッパー”はとんでもない技だ。


 闘気を脚の一点のみに集中させて相手を蹴り砕く......


 言うのは簡単だが、闘気を全身に纏うのでもやっとの俺からしたら超高等テクニックなんだよ! 俺は真似出来ない!!


 なら、今の俺に出来ることで限りなく再現すればいい。


 一点に集中させる事ができないならば! それと同じくらいデカい闘気を全身に纏えば良いじゃない!


 対ジン格闘術は感情を原動力に身体能力を引き上げる技!


「感情爆発! 闘気全開!」


 体中の骨が軋み、全細胞が苦痛を少しでも和らげようと絶叫していた。


「ハハハハハァ‼ いいねこの感じ! 最高に生きてる‼」


 トウヤは笑っていた。その苦痛すらも己の力に換え、今度は腹の下まで跳んだ。


「破壊者だかなんだか知らねぇけどよ......取り敢えずその結界が邪魔だ! ぶっ壊してやる!」


【必殺! 見様見真似崩覇ホッパーパンチ!!】


 さっきまでとは全然違う、衝撃が内部で爆ぜるようなこの感覚!!


「今までで一番の手応え来たァァァァ!!!!」


 三界の破壊者全体が俺の拳の衝突点から波打つように大きくたわむ......その後、ガラスが砕けるような音が響いた。


 結界が一層破壊されたのだ。


「旦那が......多重結界を一つ壊した......あの赤い魔力みたいなの、どんな術なんですかぃ......?」


「大方感情か生命力を消費して魔力を作り出してんだろ......あいつらしいと言えばあいつらしい戦い方だ......」


 聴力も数倍なので、驚いているライとなんか的確に当ててきて腹立つルークの声もよく聞こえる。


「――――みたかクソミジンコ野郎! もう一発いくぞォォォォ――――っらアッ!!!!」


 二発目。今度は拳の衝撃が内部を貫通したのか、全く明後日の方向から爆発音が聞こえた。


 二層目の結界が破壊される。


「まだまだ邪魔な壁が多いなァ!!!! そんなに壊れるのが嫌いか!?」


 もう一発......今度は闘気を直接突き刺すイメージで!


「今の俺は無敵ッ!!!!」


【見様見真似! 崩覇ホッパーキック!!!!】


「壊れろォォォォッ!!!!」


 蹴りの入った場所が大きく凹む。


 三層目が破壊出来た!


「まだまだァァァァッ!」


 ズン! という音と共に、三界の破壊者が大きく揺れる。


 四層目も壊れた!!


「いっけぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!」


 その瞬間、脳に電撃が走った。全身のブレーカーが落ちたように身体が動かなくなる。


 過剰な闘気を放出し続けていれば、それだけ時間制限も短くなる。


「ッ~~~......クソ......このタイミングかよ......」


 トウヤはそのまま地面に墜落した。

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