第65話 協力と良悪

 身に纏っていた闘気が無くなった途端、多重結界の反動で俺ははね飛ばされてしまった。


「なんで......まだ一分経ってないのに......」


 そうか。一分の時間制限はあくまで『普通に対ジン格闘術を使用した場合』の時間であって、今みたいに無茶な使い方をした場合はもっと短くなるのか......なんでこんな単純な事に気が付かなかったんだ......


 筋肉が、骨が、神経が、俺の全てが絶叫を絶えず発している。


 それに耐えられるだけの気力も残っていない。


 その時、俺をとてつもなく大きな影が覆った。


 三界の破壊者が進行せんとまた歩み始めたのだ。


 俺の事を殺そうなんて微塵も意識していないだろう。だが、その街程もある圧倒的な大きさと質量の足の裏は動けない俺を踏み潰すには勿体ない一品だった。


 だが、俺の死の影は振り払われる。


「壊し屋! 無茶するな全く......死ぬ所だったじゃないか!」


「ゴリラ.....じゃないガリア......なんで......」


 なんでコイツが俺抱えて走ってるんだ? そんなにこの人の事知らないんですけど......


「お前にはヴィフラムの件で借りがあるからな! あとお前に依頼したい事も沢山あるんだ! ここで死なれたら困る!」


「よく分からん理屈だけど......助かったよ......」


 ガリアはトウヤをプリメーラの足元へ下した。


「トウヤ大丈夫!?」


「プリメーラ......なんとか生きてるよ」


 今のこの状態を生きてるとカウントしていいかは怪しいけどな。


「無茶しすぎですよ旦那。局長が来なかったら死んでましたねぇ......」


「そうだ、ライ! こんな悠長に話してる場合じゃないだろ......! 俺の攻撃が止まった途端また動き出し――――ウグッ!!」


「喋らないで! あと動かないで!」


 呼吸しただけで肺が裂けそうだ......!!


「副長、旦那が回復するまでジブンらで時間を稼ぎましょぉ。局長は日頃の運動不足が祟って動けないみたいだし」


「馬鹿野郎。俺は手を出さないって言ったろ......ここへは様子を見に来ただけだ」


「まだそんな事言ってんですか......今は全員で協力するべきですよねぇ......」


 なんでここでルークとライが険悪になるんだ!?


「お前ら待てって――――」


「悪い、言い忘れていた。手は出ていないが......は出してたかもしれん」


 ルークはその言葉を発すると同時に指をパチンと鳴らした。


 すると次の瞬間、空から三界の破壊者に引けを取らないレベルでデカいクギが13本降ってきた。


 それらは的確に可動部の動きを制限し、完全に動きを止めてしまった。


「そこまで長く動きを止められる訳じゃないが時間は稼げる......さぁ、してどうするか考えようぜ」


 ルークは唖然とする一同を横目にニヤリと笑った。


◇◇◇◇


「待て待て待てルーク!? 何......あれ......僕知らないよ!?」


 さも当然のように話を進めようとするルークに真っ先に詰め寄ったのはガリアだ。


「何って局長......俺の愛用のクギですけど......少しデカいですかね」


「少しどころじゃないだろこれはァ!! てかえ!? どうなってるの!? どこから出てきたの!? なんでこんなの持ってるの!?」


「経費で落とした特注品ですよ局長」


局長トップに断りなくなんつーもん作ってんだ!? いや、危機を凌げてるから良いんだけどさ!」


「そぉですよ局長......ジブンも経費でマンガの新刊買ってる事ですし、副長のこれもお咎めなしってことでぇ――――」


「させねぇよライ!? 今サラッと己のした事流そうとしたけどそうはいかねぇぞ!?」


 今にもこの三人での喧嘩が始まりそうな雰囲気ッ!!


「お前ら街の危機に何トリオ漫才してんだよ!!!! 後でしろよそんな話!!」


「壊し屋の言う通りだ。お前等冷静になれ」


 一番取り乱してたガリアが何言ってんだ。


「ジブンからは良いお知らせと悪い知らせがあるんですがぁ......どっちが聞きたいですか?」


「悪い方」


「良い方」


「どっちも!」


「良い方」


「悪い方」


 ルークと俺は悪い方を、ガリアとソザウは良い方をそれぞれ先に聞きたいみたいだ。フィンのどっちもはまぁ......どうせどっちも聞くんだから良いだろ......


 多数決的な感じならあとプリメーラがどちらを選ぶかでどっちが先に聞くことになるのかはっきりするのだが――――


「よくも悪くもないお知らせって無い!?」


「「「ある訳ねぇだろそんなもん!!」」」


「ありますよぉ」


「「「あんのかよ!!」」」


 そもそも「良くも悪くもないお知らせ」ってなんだよ.......


「で、良くも悪くもないお知らせですがぁ......さっき旦那が破壊した四層の多重結界の再生がジブンと局長、副長のコントの最中に完了しました。また一からやり直しです」


 これ悪い知らせじゃねぇの? 失態なんてもんじゃねぇだろ。


「良い知らせというのは......アレの弱点が判明しました」


「なにィ!? 弱点!!? あるの!?」


 ライの言うミジンコ破壊者の弱点とは、本体内部にある一つの本エネルギー炉と二つの副エネルギー炉の事らしい。


 全てを完全に破壊すれば、俺の勝ちって事か。


「多重結界ですら俺壊すの結構大変だったよ? それなのに内部にあるエネルギー炉を3つ壊すなんて結構な無理ゲーじゃね?」


「可能性があるとするならば......」


「魔法を内部で爆発させる......とかになるな」


 ガリアとルークの案が一番現実的だな。


 となると、魔法で俺が一番頼りにしてるのは――――


「お前の出番が来るぞ。フィン」


「任せておけ! 我はまお――――ムグッ!!?」


魔法まふぉうが得意なんだよなぁー! フィンは!!」


 一瞬ルーク達がきょとんとしたが、本当に一瞬でスルーされた。


「? そうだな。その子供の魔法なら、可能性はある」


 っぶねぇぇぇ!!!! 今度ちゃんと外で魔王って言っちゃいけないって約束しとかねぇと!!


「――――それで、悪い知らせとはなんなんだ? ライ」


 そういえばそうだった。まだ悪い知らせは残ってるんだった......


 嫌な予感しかしねぇ!!!!


「悪い知らせですがぁ.....さっき冒険者を一瞬で塵にした砲撃の準備が始まりました......あと5分もすればジブン達も死にますねぇ」


 突然死が目前にやってくる感覚とは、こういうものなのだろう。


 その場にいた全員の顔が驚きか、恐怖か、あるいはそのどちらもで固まることしか出来なかった。


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