第66話 女神の秘策
「――――悪い知らせですがぁ.....さっき冒険者を一瞬で塵にした砲撃の準備が始まりました......あと5分もすればジブン達も死にますねぇ」
「ッ!!?」
その場にいた全員が言葉を失った。
「んでそれを早く言わねぇんだよ......」
「どうして五分なんだ?」
「ジブンの......カンです」
勘かよ。
「時間は前後する可能性があるって事か――――ってなんの解決にもなってないだろ!! どうやって止めるんだよ!!」
「ジブンに刀があれば斬ってみるんですけどねぇ......」
「幾らなんでも無理だ。諦めろ」
ライが柄と鞘だけになった刀へ手を伸ばそうとするのをルークは止めた。
誰もが攻めあぐね、守りあぐねている。
反応する事すら難しい魔力の砲弾。一度防いでも“次”がある以上その場しのぎ的対策ではいずれ限界が来てしまうだろう。
おまけとして時間をかけすぎれば街は踏み潰されるという制限まで付いている。余りにもできる事が限られていた。
俺は......いや、この場にいる誰もが
他を圧倒する圧倒的な質量だけが強みじゃなかった。攻めも守りも完全無欠と言っていい。
破壊者の奥の方に覗く馬鹿でかい砲身に魔力が着々と充填されていく。体感8割と言った所だろうか......もう時間が無い。
「俺が......俺がやる......プリメーラ......もっと回復魔法をかけてくれ......頼む」
立ち上がる足に上手く力が入らない。血が巡る度に裂けるような痛みが全身に広がる。
「ごめんトウヤ......回復魔法は......傷は治せても反動から来る疲労は治せないの......」
プリメーラの目から涙が溢れ出す。
俺が倒れないように肩を貸しているせいで、その涙は拭われる事はなく地面へと零れ落ちた。
「どうしようも......無いのか......」
「こんなに弱った旦那は初めて見ましたぁ......」
「致し方無い。俺の最終手段を使うしか――――」
「その必要は無いわ!」
“最終手段”という、何らかの行動を取ろうとしたガリアをプリメーラは制止した。
態度を急変させたプリメーラが両腕を大きく振ってポーズを取ったが為に、俺の身体は何の抵抗も示すことなく地面へ落ちた。
「実は! あのチャージされてる魔力砲弾は放たれません!」
「「「へぇ???」」」
プリメーラ!? 何を言ってるんだ!!?
「お、お前......遂に頭がおかしくなったのか?」
俺はやっとの思いでプリメーラの額に手を当てた。熱はないようだが.......
「違うわよ! 頭がおかしいのは元から――――って元からおかしくないわよ!!」
プリメーラはトウヤの手を払いつつ見事な乗りツッコミを披露した。
「まぁ落ち着け壊し屋。今は夫婦漫才を繰り広げてる場合じゃないだろう?」
それを
「――――で、アレが放たれないってのはどういう事だ? 壊し屋の......女」
「いやー実はね? あんな砲撃そう何回も来たらヤバいとおもって一発目のすぐ後に私の
つまり? あの充填されてる魔力砲弾は、撃とうとしても外に出なくて......内部で爆発するって事か?
じゃあ今までの問題全部解決じゃん!!!!?
「なんでそんな大事な事黙ってたんだよ!?」
「だってぇ! ピンチになった後に私の一手が決め手になったら、カッコよくない?」
いや、まぁ、そうなんだけどさぁ......
みて? みんな唖然としてるよ? 開いた口が塞がっていない。
「――――まぁいいじゃない! 勝ちは勝ちよ! トウヤ! 私が壊しちゃってごめんね?」
砲身で限界まで集中した魔力が行き場を無くし、その場で膨張を始めた。
こうなってしまうと、後は爆破炎上するのを待つだけである。
「良いのかなぁ、こんな終わり方で......フィン、耳塞いでろ」
「うん!」
別に目は閉じなくて良かったんだけどね。
「BANG!」
やけに艶っぽいプリメーラの決めゼリフを引き金として、音かどうかも怪しい重低音の揺れが全てを震わせた。
砲身から発生した光の球が山のようにデカい自分自身を覆い尽くす。
プリメーラが結界を張ってくれたので、大半の光と熱はこちらに届かなかった。
光球が出現していた時間は10秒にも満たなかっただろう。
だが、その10秒程で巻き起こった天変地異は勝利を確信するのに十分な物だった。
酸素を燃やし尽くして消失した光球の中より無傷の破壊者が出現するまでは。
「なんであの爆発を喰らって無傷なんだよ......」
「一瞬視えました......あの野郎、爆発する瞬間に砲身を切り離したんでさぁ......後は内部に届く筈だったエネルギーは全て多重結界に阻まれて――――」
無傷って訳か。
砲身の切り離し......そんな事も出来たのかよ反則だろ......
「嘘......よね? 夢よね?」
「残念だが現実みたいだな......今ので俺のクギも燃え尽きた。また動き出すぞ」
再び動けるようになった喜びを表すように破壊者は一歩目を踏み出した。
地面が波打ち、プリメーラの張った結界は砕け散った。
「あ......あぁ! もう終わりだ......街も! 家族も! 俺達も! みんな死ぬんだ......」
ソザウは鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにし、行き場の無い悔しさをぶつけるように拳を地面へと打ち付ける。
「まだだ......まだ終わってねぇ......!!」
身体を少しでも動かす度に全身を痛みが襲う。
「グッ......!! アァァッ!!」
「トウヤ......そんな体で何が出来るって言うの!?」
「うるせぇプリメーラ! 対ジン式格闘術――――ガァァァッ!!!!」
闘気が......使えない......体力が無さすぎるのか!?
「トウヤ......」
「待ってろフィン! 俺が最強だって......見せてやる!!」
まだだ!! 感情を! 全てを燃やす!!
「旦那ぁ......」
「ライ......グフっ......ア゛ッ......」
どこも怪我していないのに、口から溢れる血が止まらない。俺の身体まで拒否してやがる! 少し......黙れよ!
「壊し屋......」
「――――――――」
一歩......一歩だけ踏み出せ......これが出来れば......後は繰り返すだけ......
――――――
――――
――
あれ? なんでこんなに一生懸命になってるんだ? 俺。
そんな考えが一瞬頭をよぎる。
踏ん張っていた足に、力が入らなくなった。
いや、またも脇腹から担がれたのだ。足と視界が少しだけ浮く。
「転びそうだぞ。こんなに短い間隔で一人の大人を二度も抱えるとは思わなかったな! なぁ? 壊し屋の! ガッハッハ!」
ガリアの豪快な笑い声が耳元で響く。
「離せガリア......俺は行く」
「立つことすらままならんその身体でか?」
「一発で終わらせるんだよ......! そうすれば俺の勝ちだ......!」
「もう一度聞くが、その身体で、か?」
二度目のそれには、ガリアの静かな怒りが込められているようで。そんな低くどっしりとした声だった。
「当たり前だ! 俺は......俺は――――」
何の為に頑張ってるんだ?
さっきは一瞬だった考えが、今度は頭にこびりつく。
「――――壊し屋の。本当に、本当に一撃で勝てるのか?」
ガリアの言葉に、トウヤは覚悟を決めたその眼で応える。
「対ジン式格闘術さえ使えれば」
「なら、俺に考えがある。少し待ってろ」
「.......は?」
そう言うとガリアは、俺を置いて街の方へと走っていった。
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