第67話 究極の切り札
「旦那......ちょろっと話が聞こえてたんですがぁ......あの化け物を本当に一撃で破壊できる手立てがあるんですかい?」
「――――ない」
「無いのかよ」
ライの質問、そしてトウヤの溜めた答えに、ルークのツッコミが入る。
「正確に言えば、今の状態のままならない。責めて多重結界が五層......いや四層破壊出来ていれば......」
正直あの結界が厄介過ぎる。今の俺の全力を込めた攻撃で一撃につき一層しか壊せないとなると(ガリアの言う考えとやらの内容にもよるが)残り一撃で完全に行動不能に追い込むのは不可能だ。
ガリアの考えも、俺が“あと一撃で勝てる”事を前提に置いている可能性が高いので、多重結界が少なければ少ない程勝利の可能性は上がるだろう。
「なるほどな......お前の考えに乗るのは癪だが、これは局長の考えでもある訳だ。一層は俺が受け持とう」
おっと? ルークが真っ先に協力を申し出るとは意外だ。
「ジブンは副長のサポートに回ります。刀がコレでなきゃぁ、ジブンも二層ほどは旦那に力添えできたんですがねぇ......」
「お、俺は! 俺は何をしたらいい!?」
ソザウはひとしきり絶望するのも終わったのか、やる気満々だ.....が、
「お前ははっきり言えば足でまといだ。死にたくなかったら離れていろ」
俺が言う前にルークが一切のオブラートを経由すること無くハッキリと言ってしまった。
「そうか......俺は邪魔か......」
ソザウはそういってしょんぼりとしているがその目には、悔しさの他にもなにか別の感情が灯ったような気がした。
「――――俺達が勝つ為の最後のピースは......お前だ。フィン!」
「我か!?」
フィンは顔をぱあっと明るくした。
「ああ! お前が成長したって所をすげぇ魔法で見せてくれ!」
フィンの魔法とルークの攻撃で多重結界をある程度吹き飛ばす。そして俺が一撃でぶっ壊す!!
不確定要素が多過ぎるが、マジこれ以外の勝ち方が思い浮かばん!
「――――ちょっと待ちなさい! 私も! 私もまお......フィンと一緒に魔法を使うわ!」
うん、今魔王って言いかけたな? ルーク達が二人で相談してたから聞いてないっぽくて良かったな!
プリメーラの言う事には、結界の破り方として「相反する二つの属性魔法を同時にぶつける」というものがあるらしい。
この場合はフィンの使う“魔”属性と、プリメーラの使う“聖”属性の魔法がこれに当たる。
そうすると結界が変化に耐え切れず吸収限界が早く訪れる......結果として結界が壊れやすくなるのだそうだ。
不確定要素がまた一つ増えたが、これは嬉しい不確定要素だ。
――――
「壊し屋のぉー! 戻ったぞぉー!」
街の方からドスドスと猛スピードで走りながらガリアが帰ってきた。
「早速始めるぞ」
「何を!?」
説明も無しに何かされるのは怖いよ!? 動けないんだもん!
「説明はやりながらする! いくぞ!!」
ガリアはそう言うと、俺の背中に手を当てた。
――――なんだこれ!? 身体が熱い!?
「なんだこれ......!? 頭ん中に声が入ってくる!!?」
力強く、熱い希望の声が、俺の身体と精神を奮い立たせてくれている.......!!
「俺の
この世界の人は選ばれた人しか持ってないけど、異世界から来た人はみんな持ってるチートスキル的なやつか!
え、じゃあ、ガリアって俺の想像以上に凄い人なんじゃねぇの!?
てか、もっと早くそれ使ってれば良かったんじゃねぇの!?
俺の疑問は、すぐにガリアより解消された。
「俺の
「施術記録の少なさが不安すぎる!!」
俺の他にも能力を使われた人がいるなら、多少安全だとは思うのだが......
「そもそも、希望で俺はどうなるんだ? 強くはなりそうだが......」
「希望は自分の魔力......壊し屋の場合は闘気だったか。それと融合して限界を超えた力が出せるようになる!」
「上がり幅はまちまちだがな」とガリアは続け、豪快に笑った。
希望の注入(?)開始から一分が経過した。目に見えて変化が出始める。
対ジン式格闘術の反動が完璧に消え去ったのだ。
これで闘気をもう一度使う事が出来る。
「――――なぁ壊し屋......お前さっき、自分が何の為に頑張ってるのか分からない......って顔してたよな」
「なんだよ突然......俺は俺が真の壊し屋だって証明する為に――――」
俺の言葉を、ガリアは遮った。
「確かにそれもあるだろうな。だが、それだけじゃ足りないんだろ? 人間は理由無く頑張る事は難しいからな......それは異世界人でも同じだろう?」
ガリアは俺の中身を全て見透かしたように、俺にしか聞こえない静かな声で話した。
この世界に来て、色んな奴と闘った。勝って、相討ちで、逃げられて......魔王を最強に育てるという野望も出来た。
だからその野望を邪魔する奴は何であろうと等しく俺の敵......な訳だが、俺は知ってしまった。いや、最初から知っていたが知らないフリをしていた。
俺一人が最強な訳じゃないと。
ガリア風に言うなら、その事実が理由をかき消す程にどうしようもなく受け入れ難いものだった。
最強とは常に一人だ。俺は少なくともそう思っている。
だから迷っている。最強じゃない俺が、
「――――お前の事は街の殆どの奴らが知らなかったぞ」
いじわるそうで、少年のような笑みを俺の顔の前で披露しながら、ガリアはそう言った。
「急になんのカミングアウト!?」
「だが、“この街を守る為に戦ってくれている”という事実で、俺に希望を託してくれた」
そうか......じゃあ、この俺の中に溢れる声はファストレアに住む人達の声か......
「俺は、お前が何に迷っているのかの深いところは知らん!......だが、今回だけはお前に希望を託した街のみんなの為に頑張ってみるのもアリじゃないか?」
全ての希望を与え終わったのか、ガリアは背中をバシンと叩いた。振り向けば、豪快な笑顔に戻っていた。
全身に満ちてなおも底から溢れ出してくるエネルギー......これが希望!!
この世界を滅ぼす魔王を育ててるってのに、その張本人に希望を託すとか変な奴らだぜ!!
「もう迷いはないか?」
ゆっくりと目を閉じ、開ける。トウヤの黒い瞳は金の光を帯びていた。
「ああ。暖かくて最高の気分だ」
もう気にする事は何も無い。
「いくぞお前らァァァ!!!!」
トウヤの声が響き、フィンやプリメーラ、警備局の三人もそれに応える。
「「「おおっ!!!!」」」
それは全員が全力の号令!!
時間もないんだ。一撃で決めるとするか!!
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