第68話 希望の一撃

「――――いくぞお前らァァァ!!!!」


「「「おおっ!!!!」」」


 俺の合図と同時に各々が行動を開始する。


 一番先に動くのは――――


「感謝しろよ壊し屋。ここまで協力するのはこれで最後だ!」


 ライは今まで使った釘とは全く違う、真っ黒な釘を構えた。


「......ありがとうよ」


「――ライ! 多重結界の少しでも弱い範囲を視ろ!!」


「砲身を切り離した部分......あそこが一番弱いです。ジブンの眼ぇ、信用していっちゃってくだせぇ副長」


「壊し屋......よく見ておけ。俺特製の“破魔のクギ”!! お前が決めきらなかったら俺が先に殺してやる――――っらァッ!!」


 バツン!! と空気が破れるような音が鳴り響き、限界まで力を溜めたルークの腕から黒い釘が撃ちだされる。


 “破魔のクギ”にはその名の通り、魔力によって生み出されたあらゆるものを無力化する能力が刻まれている。


 これはルークの魔力から作られた唯一無二の釘で、連続使用は出来ないルークの切り札である。


「さぁすがは副長だぁ......一、二、三層目までの多重結界が破壊されました」


「結界効果まで無力化出来れば全部割れたんだが......後は任せたぞ。フィン」


 当初の予定の三倍、三層目までの多重結界が破壊された。


 そしてバトンは次へと託される。


「まっかせるのだ! 合わせろプリメーラ!」


「こういうのは年上に合わせるの! アンタが私に合わせるの!」


 あれこれ言い合いながらも、フィンとプリメーラは同時に魔法の詠唱を始めた。


「その苛烈にて魔を統べし三千世界の王よ。今こそ天を裂き神を屠るその力、今こそ我に与え給え!」


「慈悲深く偉大なる天界の神々よ。今こそ大地を砕き邪を撃滅せしその御業、今こそ我に与え給え......」


 魔法に置いて詠唱とは、その効果を自らの脳内で想像出来るならば省略しても構わないものである。


 しかしフィンは本能で、プリメーラは理屈で理解していた。


 “詠唱を挟んだ魔法からは120%の潜在能力ポテンシャルを引き出す事が出来る”と。


 お互いの撃ち放った魔法はお互いに喰い合い、より強い一撃を生み出した。


「「【合技! 相反する魂の終着点エデン・エンド・ニルヴァーナ】」」


「お前らすげー息ぴったりだな......」


 そんな言葉しか出てこない。


 聴けば地の底からの悪魔の笑い声のようで、また聴けば天使の鳴らす鐘の音のような爆発音が響き渡る。


 フィンもプリメーラも相当魔力を消費したのか、よろめいた後その場にへたりこんでしまった。


「ここまでお膳立てしてやったんだから......完膚無きまでに叩き壊さなきゃ承知しないわよ......トウヤ!」


「がんばれトウヤ!」


「ああ、わかってる」


 最後アンカーは俺だ。


 深い深呼吸をひとつ......うん、全然大丈夫だ。


「いくぜオラァァァァ!!!!」


 ガリアの“希望ホープ”で何百倍にも増幅された闘気が噴き出す。


 ビリビリと空気が震える! 大地が揺れる!! 


「旦那! 残りの結界は一層! 動力炉のある位置は――――」


「全部ぶっ壊すから関係ねぇよなァ!! なぁライ!!」


「......確かに」


「納得すんなよ――――出来るのか?......は野暮だな」


「やるんだよクソルーク!!」


 跳躍の一蹴りで地面が大きく歪む。一瞬で破壊者の頭上へ到達してしまった。


「――――破壊者だかバカ医者だがヤブ医者だか知らねぇけどよ......ちょっと俺と遊ぼうぜ」


 破壊者からの返答はナシ......いやまぁ当然か、生き物じゃないし。


「名付けて!“先にぶっ壊れた方が負け! ドキドキチキンレース!!” ルールは簡単! お互い殴りあって先に壊れた死んだ方の負けだァ!!」


 ルールイズシンプル!!


「というわけで先攻は俺ェェェェ!!!!」


 そのタイミングで装甲の液体金属がボコボコと沸騰し、今までとは比べ物にならない数の触手が襲いかかって来る。


「おいおい先攻は俺って言っただろ......? ルール違反だよなァ!!!!」


 俺を串刺しにしようと迫る無数の触手は、砕き壊すまでもなく全身から噴き出し続けている闘気に触れた瞬間蒸発してしまった。


「ま、今の俺は最高に気分が良いから見逃してやるよ......あんまり防御用の液体金属を攻撃に回し続けると後攻のお前が不利になるぜ?」


 これ以上話しすぎると重力に合わせて落下してしまう。またここまで跳ぶのは面倒だし、とっとと終わらせるか!


「じゃあな偽物!! 俺の勝ちだァ!!!!」


【超必殺! スーパーホープパンチ】


 俺の拳が顔面(と思われる場所)に衝突した瞬間、大陸全体が大規模な地震に見舞われた。


 破壊者の全質量を支えていた六本の巨大な脚が砕けて胴体に当たる部分が地面に叩き付けられたからだ。


 最後に残った結界は薄く張った氷のように砕け、液体金属は変形が間に合わずに蒸発していく。


 辺り一帯を消し飛ばすような大爆発......なんて事はなぜか起こらなかった。


 派手さにかけるなぁ......!!


 爆発はなかったが、破壊者だった物は数グラムの塵を残すのみでそれ以外は完全に消滅していた。


 まあ......アレだな。俺は勝ったのだ。


「っ~!!――――よっしゃァァァァァ!!!!」


 地面への着地を華麗に失敗して、べちゃっと潰れた俺の元へみんなが駆け寄ってくる。


「スライムちゃんみたいになってる......余程疲れたのね」


 え、べちゃっと潰れたはぐれメタル的フォルムって比喩じゃないの? 疲れた的な比喩じゃないの?


「もどるの?」


「......分からないわね」


 プリメーラさん!?


「お疲れ様です旦那ぁ.....あ、すごいベタっとしてる......飲み過ぎた時のゲロみたいな――――」


「汚ぇからやめろバカ!」


「ガッハッハ! まぁ何はともあれ、上手くいったようだな! 壊し屋の! お前は本当に、この街の英雄だ!」


 ガリアはそう言うと、不定形になってしまった俺の身体を天へ持ち上げた。


 当然液状の不定形なのでガリアの顔に俺がかかるという絶対に体験出来ない状況になってしまう。


 まぁ、そんなこんなで俺達は三界の破壊者に勝つ事に成功した訳で。俺が真の壊し屋であるという事が証明されたのだった。

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