第60話 日常は突然に①

「トウヤ~! ご飯にするから魔王とスライムちゃん呼んできて~!」


「おーう」


 一階のキッチンから本日の料理当番、プリメーラの声が響く。


「きょうのごはんは......プリメーラか......」


「ミ゚......」


 ご飯の号令を聞き急いで壊し屋の中へ入ってきたフィンとショクだったが、作っているのがプリメーラだと知り覚悟を決めた顔をする。俺も同じ顔だ。


「あからさまに残念な顔しないで!」


 愛という名の呪い禁止令を出した事で、プリメーラの飲食物はギリ食べれる範囲まで持ってこれていた。いや、不味い事に変わりは無いのだが!


 本人曰く「実は料理教室に通っていたのよ!」との事だったので、一体何人がこの味を作る為に犠牲になったのだろうと思うと心の中での合掌が絶えない。


「――――そういえば魔王の魔力量、大分増えてきたわね」


 この場の人間で一番魔力に詳しいプリメーラ的には、フィンの魔力総量は俺達が出会った時の数倍にまで跳ね上がっているらしい。


 そういえば、若干身長も伸びている気がする。


「我は“せいちょうき”だからな!」


「それは前聞いた」


「ショクとの戦闘訓練たたかいごっこが効いてるのかもな」


「あらホントね......スライムちゃんも強くなってる......?」


「ミ゚ッ!」


 フィンとショクの戦闘訓練たたかいごっことは、主に魔法を放つ時の魔力コントロールをできるようにする鍛錬である! 


 フィンは当然本気でやっているし、ショクもそれに全力で応える。実力が伯仲しているので、とても楽しそうに遊んで......いや鍛錬しているのだった。


「トウヤ! いつあの赤くなってぶわァァァァ!!ってやつ教えてくれるの!?」


 フィンの言う「赤くなってぶわァァァァ!!」とは、対ジン式格闘術の事だろう。


 あれはいつかは教えるつもりだが、それは今では無い。


 あの技は身体に対する負担が大きすぎる。


 そこそこ鍛えているつもりの俺でも、あの状態で戦えるのは一分が限界ってところだ。


 オマケに使った後は全身の疲労と痛みでしばらく動けなくなる始末。迂闊に使えん!


 以上の事柄より、フィンには今よりもっと身体が頑丈になるまで対ジン式格闘術の伝授はお預けの判断を下したのだった。(あと、そこそこ苦労して会得したのに簡単に使いこなせるようになられては困るのだよ)


「あー......また今度な」


「なんでぇぇぇぇ!?」


「魔王は魔王らしく魔法使ってりゃ良いのよ。せっかく魔力があるんだから」


 珍しくプリメーラが魔王最強育成計画について賛成の意を示してくれた......


 と思ったら俺の思い違いだったようで、すぐにハッとした表情で呻き出す。


「ぁぁぁぁ~......なんで私......考えがッ!! トウヤに毒されて来ているぅ~ッ!!」


「面白そうだって着いて来たのお前だろ......」


「そうなんだけどね!? なんというかこう......仲間を裏切ってやしないかという後悔がね!? 今になって押し寄せて......」


 女神というすごい存在のはずなのに、どうも言動が人間臭い。


 そんなところが仲間として割と気に入っていたりするのだが、本人に言えば調子に乗りそうなので絶対に言わない。絶対にだ!

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