第6話 魔王、誘拐されました①

「――という事でやって来ました! 駆け出しの冒険者達が集まる街“ファストレア”!」


 空が青い! 街にいる冒険者の数も多い!! 活気が魔王ラスボス手前のエンドランスとは段違いだ!


 これぞ俺の想像していた異世界! やっとそれっぽくなって来たぞ!


「流石にこれだけの長距離を転移魔法で移動するのは魔力消費えげつないわ......なんでこんな田舎まで来たのよ~! エンドランスにいれば良かったじゃない!!」


 魔力を使い過ぎてぐったりと溶けかかっているプリメーラが愚痴をこぼす。


「実はな、魔王城を出る時おじいちゃんから魔王の簡単な説明書貰ってさ。見るか?」


 子供の説明書ってのも変な話だが、た〇ごクラブ程度に思っておこう。


「えぇと――――『魔王様は魔力量は凄まじいですが成長段階の為まだ魔法を使えません。死にかけのセミとトントン位の強さなので、最初はなるべく弱い魔物の多い土地で修行をして頂きたいです。PS,甘いお菓子をご飯の前に食べさせると晩御飯を食べなくなります。おやつを与え過ぎないようにしてください。あとなるべく9時までには寝かせて貰えるとありがたいです......孫をお泊まり会へ送る過保護なおじいちゃんか!!」


 プリメーラは半分程読んだところでツッコミゲージが溜まったのか手紙を叩き付けた。


「プリメーラその紙大事に取っとけよ? あとそういう訳だからここまで来たって訳だ。転移魔法ご苦労」


「それで......? 肝心の魔王はどこに行ったのよ」


 あれ? そういえば姿が辺りに見えないような......


「お! ボウズかっこいい服じゃねぇか! 牛豚ウシブタの串焼き、味見していくか?」


「いただくぞ!」


 魔王は数十メートル先の屋台でお肉を持ってにっこにこしていた。


 いたァァァァ! 到着して一分もしてないのに少し目を離したらコレだよ!


 心臓に悪い......


「――――いいか? 絶対に俺達の傍から離れないでくれ」


「はじめてたべる! ウシブタおいしい!」


「ねぇ人の話聞いてる?」


 こうしてみると本当に普通の子供なんだが魔王なんだよなぁ......


 魔王って俺と同じ鍛え方で強くなれるのだろうか? まぁ気にしたらキリがないか。


「気を取り直して......プリメーラ! この世界で壊し屋を始めるにはどうしたらいい?」


「まずは商人ギルドへ行って出店許可証を......ゴメン、マジ体だるいからあとはよろしく。あとおんぶして」


「お、おう......ホントありがとう」


 重い......あと背中にナニか当たってますけど!?


「......? どうしたの? 早くれっつらゴウ!」


「うっせえな! わかってるよ!!」


 この感触は、あれだな! ご褒美として有難く受け取っておくとしよう!


 しかし商人ギルドか。そこで店を開きたい胸......いや旨! を伝えれば良いのか! 


「――ウチとしては用紙が無ければ許可証は出せませんね」


「はぁ......」


「先ず業務上魔物との戦闘が予想されるので先に冒険者ギルドの方で冒険者登録をしてください。無い場合はそのままで大丈夫です――――」


「なるほど......」


「――そして出店場所ですが屋台またはそれに近しい場合はこちらの用紙の上部だけを、家屋の場合はもう4枚、これらの用紙に必要事項を記入して頂き不動産担当の方へ提出をお願いします。最後に融資に関してですが17番窓口での受付となりますので再度お呼び出しさせていただきます」


「......」


 待ちに待って4時間後。


「――――融資......本当に受ける気ありますか? コッチだってお金は無限に湧いてくる訳じゃないんですよ? ハッキリ言って融資は難しいと言わざるを得ませんね」


「そうですか......」


「せめて何処で、何を、どういう風に営業するかだけでもはっきりさせてから再度来てください」


 結論。


 この世界に来たばっかりの俺じゃ無理!


「ちくしょう!! 結局丸一日かけて一歩も前に進まないのかよ!!」


「焦ったってしょうがないわよ......取り敢えず冒険者登録は明日にして、今日はもうどこかに泊まりましょ......」


 まだ体動かないのかよ......ギルドのど真ん中で堂々とうつ伏せは目立つぞ。


「あれ? そういえば魔王どこいった?」


「トウヤが見てたんじゃないの......? 私しんどすぎてほぼ寝てたから」


 見える範囲にその姿はない。外に――――!!


 駄目だ。すぐ近くにはいないようだ。


 俺が話してるのがつまらなくてまた屋台の方へ行ったか?


「――おーい! ちびっ子まお......ちびっ子ー! どこいったー!?」


 先程の屋台のあった場所へ戻ってきたが、返事は無いし声も聞こえない。人探しのポスターがちらりと目に入る。


 考えたくない、ある可能性が頭をよぎった。


「まさか誘拐なんてされちゃったんじゃ......」


 プリメーラも行き着いた結論は同じだったみたいだ。


「やばいぞプリメーラ! 今すぐ探しに行く!」


「そんなに焦らなくても......仮にも魔王よ? 下手な人間よりは強いんだし戻ってくるわよ」


「だからやばいんだろうが! 最悪の場合......今世界が滅ぶ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る