第5話 ちびっ子魔王、最強に育てます

 前回までのあらすじ!!


 トウヤ、この世界に送られた目的である魔王討伐に魔王サイドの降参という形で成功! 感動のフィナーレへ!


「おかしいおかしい! え、こんなで良いの? 良い訳あるか!? あっていいはずがない! プリメーラどういう事なんだよ一体!?」


「私に聞かないでよ!! 私だって......魔王がこんなちんちくりんだって知らなかったもん!」


「知らないで死人をこっちに送り込んでたって言うのか!? 女神の運営体制に問題が――――」


「ひざすりむいちゃったぁー! じい~! いたいのいたいのとんでいけしてぇ~!!」


 俺とプリメーラの不毛な言い争いに終止符を打ったのは、魔王(とは到底信じられないので仮としておこう)の泣き声だった。


 ギャン泣きの魔王(仮)......おじいちゃん困ってオロオロしてるだけだしこれだと話が進まん!


「プリメーラ、この魔王に痛いの痛いの飛んで行けしてあげなさい」


「えぇ......」


 露骨に嫌そうな顔すんじゃねぇよ!!


「分かる。一応魔王ってのがこの世界の脅威だってのは情報としては知ってる。でもさ? 幾ら滅ぶべき存在だとしてもこんなちっちゃい子これ以上傷付けられるか?」


 ギャン泣きのターンは終わったが、まだエグエグと涙ぐんでいる。


 なんというかこう......見た目が5歳児位だからとか、そういうの関係無しに守ってあげたいなにかがあるんだよなぁ......


「わかったわかったわよ! 状況が状況だからね! 別に魔王に施しをする訳じゃ無いんだからね!【小回復ヒール】!!」


 やけくそだが、プリメーラの回復魔法は確かに魔王(仮)の傷を癒した。


 回復魔法を使うと身体が薄く緑に発光するのなんか面白いな。今度俺もやってもらおっと。


「おぉ、魔王様の傷が......! 回復魔法で治るとは......」


 痛くなくなって安心したのか、魔王(仮)は疲れて寝てしまったようだ。これでようやく話が進む。


「――じゃあ話を戻すか。で? 負けでいいってなんだよ。闘い舐めてんのか?」


 幾ら魔王がちびっ子でもここはハッキリさせておかなくてはならない。なぜなら俺がこの世界へ来た目的がかかって来るから......そういえば、魔王を倒した後俺はどうなるのだろうか。元の世界での俺は死んでいる訳で......後でプリメーラに聞いておくとしよう。



――――



 俺の質問に対し、おじいちゃんはしばらく思案した後、頭を何度も下げながら答えてくれた。


「滅相もございません! 魔王様は代替わりしたばかりでまだ幼い身。才能に溢れたこの子を死なせる訳にはいかないのです! だからどうか......どうか魔王様の命だけは――!」


「それがなんだって言うの? ちっちゃくて才能に溢れてるって事は、成長したら立派な魔王になってもっと世界の脅威になるって事じゃ無いの!?」


「それは......」


 プリメーラの発言におじいちゃんは言葉を詰まらせる。


「トウヤ! 今がチャンスなの! 今ならあなたの力ですぐに倒せるわ!!」


 プリメーラはこれが悲願だったのだ。だから言っている事が分からない訳では無い......のだが......


「それってさぁ、楽しい訳?」


「楽しい?」


「そう。俺の中の常識だけどよ、魔王ってのは最後に登場する存在でラスボスな訳。今までの知識とか経験を総動員してやっと倒せる様な存在な訳。それをこんなちびっ子寄って集って虐めてはいクリア! ってどうよ? 俺は嫌だね」


 俺は一目見た時から分かっていたのかもしれない。秘める潜在能力に。その圧倒的な強者感に!


「待ってトウヤ......段々アンタの考えが見えて来た気がするわ......でも、他の勇者もいるし、まさか成長するまで待つつもりじゃ無いわよね?」


「惜しい! 俺がちびっ子魔王を強くするんだよ! どうせ元の世界に帰ろうにも死んでるんだ! こっちの世界で好き勝手やった方が一兆倍楽しいに決まってる!」


「なんと! それは本当ですかな!!?」


「アンタの事転生させたの間違っちゃったかもしれない......」


 驚くおじいちゃん、呆れて涙を流すプリメーラ。どうやら反対意見のある人はいないようだな。


「あと大事なのは......起きろちびっ子魔王!」


 ちびっ子魔王は少し肩を揺らすと重い瞼をゆっくりと上げた。


「んぉ......まだねる......ってうぉ!! きさまはさっきの我をたおしにきたにんげん! さては“ねこみ”をおそうつもりだったなこのぉ!!」


「後でゆっくりと聞くから今は俺の話を聞いてくれ。分かったか?」


 魔王は下膨れのほっぺをぷるんと揺らしながら大きく頷いた。


「良いか? お前はこれからすっごく強くなれるだろう。でもな、もしかしたら強くなる前に勇者に倒されちゃうかもしれない。そうだろう?」


「うん......」


「そこで? 俺がお前を引き取る。俺は強いからな! 出来る限りお前を鍛えてやろう! そして強くなったら俺と戦え。どうかな?」


「お父さんより強くなれる?」


「ああ。俺と一緒にいれば絶対だ! 約束する!」


「じゃあわかったのだ! 我はきさまといっしょに行く!」


「決まりだな!」


 小さく、しかし大きな約束が二人の体を包み込むように照らした。


「誘い文句が誘拐なんだけど......まぁいいわ。良いトウヤ!? これで世界が滅んだらアンタのせいなんだからね!?」

 

「壊し屋としては、一回世界もぶっ壊してみたいもんだな!」


「はは、冗談に聞こえなーい......」


 こんな事を言ってはいるがプリメーラも着いてきてくれるようで、三人で街へと帰ることにした。


 異世界に転生して一日目、魔王が弟子兼仲間になった。ここから俺の異世界生活は始まるのだ!


 目標は強く育てた魔王に勝つ事! その為ならどんな障害も俺がぶち壊してやるよ!

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