第36話 アンバランスブレイバー

「――――彼女は、“ヴィフラム・ヴォーパルス”。始まりの勇者の末裔とされている一族にして、今はアンバランスのメンバー......世界が作り上げた化け物さ」


「あいつが......勇者の末裔?」


 いや、そこまで驚く事でもないか。


 勇者ってのはアレだろ? 俺と同じで別の世界で死んでこっちの世界に来た人だろ? そりゃあ第二の人生がつよつよで始められたんだったら後世に残るような名家を築けていても不思議じゃ無いよな。


 アンバランス......ってのもまぁ納得だ。雰囲気と言うか、戦った感触と言うか......そんな感じのアレが同じくアンバランスのサイリスと似た感じがしたからだ。


「それで? それがなんだってんだ?」


「局長、そもそも“あんばらんす”ってなんですかぃ?」


「あれぇ!? もっと『なん......だと?』みたいな反応期待してたんだけどなぁ!? あとライは普段から俺の話聞いてて!?」


 俺と...ライも、特段驚いてはいなかった。そんな反応に逆にガリアが驚いている程だ。


 フィンは“勇者”という単語に直感的な嫌悪感があるのか、何やら苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 意外にも一番反応していたのはプリメーラだ。もしかしたら最初の勇者をこっちの世界に転生させたのもプリメーラで思う所があるのかもしれない......俯いて何かブツブツと言っているがちと怖いぞ......


「――――分かった。ただ、俺もライと同じようにアンバランスについて犯罪組織って事位しか知らない。言える範囲だけで良いから俺にも教えてくれ」


 ガリアの代わりに口を開いたのはルークだ。


「ああ、そうか。お前も異世界から来たばかりの“異世界人”だったな。ライも! ここへ来たばかりの時説明した筈だが、もう一度説明してやるから一言一句漏らさず理解しろ。できないなら死ね」


――――アンバランスとは、魔物と人間との生存圏争いが熾烈を極めるこの異世界で、大量殺人、国家転覆、戦争幇助、その他数えようとすれば人間の指が幾つあっても足りない程の犯罪を起こしてきた、世界最悪の犯罪集団である。


 その真の実力は人間の切り札、異世界の勇者クラスとも言われているがその素性、人数等は謎に包まれている。


「......やべえ奴等じゃん」


 ヴィフラムはともかく、サイリスもその一員なんだよな......この世界に来て初めての相手が人間なら世界上位の相手でよかったと思おう。


「つか、ヴィフラムがよくそうだって分かったな」


「そうか、お前にも一応教えておくか......」


 ルークはそう言うと、地面に何やら絵を描き始めた。下手過ぎて輪郭しか分からないが、どこかで見た事があるような......


アンバランスメンバーの身体のどこかには、こんな感じの天秤の刺青が入れられている。ヴィフラムの首にもあっただろ?」


「そういえば!」


 あれがアンバランスの印か......なんか段々と話がでかくなってきてないか?

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