第54話 わくどき!? トウヤ秘密の特訓②

「今のがウォーミングアップ......マジで言ってるの......ウップ!!」


 息を切らし、汗だくのプリメーラがよろよろと俺の足元へ寄ってきた。


「どうしたプリメーラ? 顔色が悪いぞ――――」


「ヴォロロロロロロ!!!!」


「「なぁぁぁぁ!!?」」


――――暫くお待ちください――――


「......スッキリした?」


「まだ気持ち悪い......」


 普段運動をしない者が急に動くとこうなるのか......少し申し訳ないことをしてしまったのかもしれない。


「ま、元々鍛錬はフィンとにやってもらうつもりだったし、木陰で休んでてもいいぞ」


「そうする......」


 こうしてプリメーラは、ひんやり冷たいショクを抱きながら座り込んだのだった。


「トウヤ! つぎはなにをするんだ!?」


 一方フィンは、さっきまで息を切らしていたのが嘘のように復活していた。


を砕く」


「――――これって......いわ?」


 そうである。


 俺の背にあるのは、俺の背丈の倍はあろうかという大岩だ。誰かと殴り合わない日も感覚を鈍らせない為に、手頃な岩を見つけてはぶっ壊しているのだ!


「フィンもいきなりこんなのは流石に無理があるから、手のひらサイズの石からな」


 俺はその岩からしてみればとてもとても小さいが、それでも砕くのは容易ではないだろう石をフィンに手渡した。


「おお......わかった!」


「じゃあ、俺が一回だけ手本を見せるからよく見とけよ――――」


 トウヤは大岩と向かい合うように立ち、少し深呼吸をした。


 拳を軽く当て、構えた状態で足を開く。


「魔力は使わない......ただ地面、脚、腹、腕、拳と練り上げたパワーを......一気に解放ッ!!!!」


 トウヤが大岩をぶん殴った瞬間、凄まじい轟音と共に大岩は砕け散った。


「俺も最終的には山くらい軽くぶち抜けるようになりたいんだが......まだまだ鍛錬が足りねぇな......」


「すごい......我もやる!」


――――


「ふぉぉぉぉぉ......なぁっ!」


 何度目だろうか。その気合いとは裏腹に軽めの音が響き渡る。


 当然といえば当然なのだが、石には傷一つ付いていない。


「フィン! もっとこう......ガっとやるとドン! って感じになるから、そこで腕に溜めたエネルギーを一気に解放するんだよ!」


「わからん!!」


 フィンに凄まじい凄みで睨まれてしまった。


 いや、分かっている......わかっているんだ。


 俺は教えるのが下手だ。


 理由は分かっている......主に俺の親父のせいだ。


 親父は俺に教えるという事をしていなかった。見て、盗めと言われて、死に物狂いで鍛錬を続けた。


 そのお陰で今の俺がいる訳だが、フィンにはちゃんと強さを教えてやりたいと思っている。


 あれ? なんでそんなに必死になってたんだっけ......肝心な所が思い出せん。


「――――どっかぁぁぁぁん! こわせればいいのだろこんないし! 我の“いし”をうけてみよ! このぉぉぉ!!!!」


 俺が物思いにふけっていると、遂に爆発してしまったフィンが魔法を使おうとしていた。


 その掲げられた腕には絶大な魔力が篭っており、あんなもん石ころにぶつけたらこの森一帯が軽く消し飛ぶだろう。


 そうなったらルーク達に文句を言われるのは俺!!


「ストップフィン! 止まれぇぇぇ――――」


 数分後、俺はようやくフィンを落ち着かせる事に成功した。


「俺もすぐに出来るとは思ってねぇよ......こういうのは、地道にこつこつが大事なんだ」


「わかった! 我、このいしをこわせるくらいつよくなる!」


「その意気だ!――――今日はもう帰るか!」


「うん!」


 そういうとフィンは真っ先に駆け出した。


 だが、その進行方向には何故かぽっかりと空いた落とし穴があった。


「フィン! 危ないから止まれ――――」


 俺の制止も間に合わず、フィンは転げ落ち......ることは無くひょいと跳び越えた。


「あうっ!」


 が、着地の拍子に躓いてそのまま前に倒れ込んでしまった。


「大丈夫か!?」


「派手に転んだわねぇ......」


 これ泣くだろうな......俺泣いた時どうすれば良いか聞いてねーよ!


「いったた......あぶなかった!」


 俺達が駆け寄るも、フィンは服についた土を払いながらニカリと笑った。


「そうか......よかった」


 数ヶ月前は転んで泣いてたのに......そうだよな。魔法についても、身体にしても、フィンはフィンなりに確実に成長してるんだな。


「なっはっはっは!」


「いきなりどうしたの? まだ気持ち悪......」


「おもしろいことあった?」


「ミ゚ー?」


 もしかしたら、俺が強くしなければと焦っていただけなのかもしれない。


「よし! 早く行かないとモーニングセットが無くなっちまう!」


「えー! それはこまる!!」


「急ぐぞ!」


 こうして、フィンの特訓は幕を閉じたのだった。


 否、フィンはトウヤと共に鍛錬をずっと続けたので、幕は上がったままなのだった!

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