第20話 刺客

「ライ......るなよ? 一応一般人だ」


 ライから流れ出るオーラは、それだけでも人の命を奪えそうな程に禍々しいものだった。


 だが、ライの表情はそんな殺気を発する主とは誰も気付かない位明るい顔をしていた。


 いや、正確にはあまり表情が表に出るタイプでは無いのでルークがそう感じただけなのだ。


「わかってますよぉ......ほとんど見に行くだけみたいなものです。じゃあジブン、そろそろ出ますねぇ......」


 新しい玩具を見つけた子供のような笑みを浮かべ、鼻歌を歌いながらライは壊し屋、トウヤを探しに街へくり出すのだった。


 基本的に何事にも興味関心の無いライが笑いながら鼻歌を歌っている。これの異常さが理解出来るのは副長ルークと、この場にいない局長ガリアだけである。



◇◇◇◇



「はい、確かに。これで出店登録は完了です。こちらの証書は再発行出来ませんので、大切に保管してください」


「はい! ありがとうございます!!」


「――――いやぁー良かったわねトウヤ! これで正式に壊し屋さんを開店できるわよ!!」


 なぜか一番嬉しそうなプリメーラが引くレベルで証書に頬擦りをかましている。


「変なオッサンだったけど、サイリスには感謝しなくちゃな! フィンもこれから色々と手伝って貰うからな!!」


「おてつだいすれば強くなれる!」


「おう! なれるなれる!」


 フィンもキラキラの笑みを浮かべていて、見てるこっちまで自然と笑みが溢れてしまう。


「――あ、でも、客が来なかったらどうしようもないな......仕事とフィンの鍛錬を同時に出来て良いと思ってたけどそう都合良く強い奴が来るわきゃねーよな......」


 異世界で新装開店された壊し屋は、分類上は【何でも屋】である。


 が! 俺はある事に気付いてしまった!! いや、見て見ぬふりをしていたのかもしれない。


 それは、「冒険者ギルドと客層丸かぶり」問題である!


 依頼をギルドに提出すれば、報酬金の代わりにその問題を解決してくれる皆さんお馴染みの冒険者ギルド。これは壊し屋ウチのシステムとほぼ一緒なのである。


 じゃあお前も冒険者になれば良くね? とか考えているそこの君! 俺も最初はそう思って冒険者登録に行こうとしたさ......ところがどっこい未成年のフィンは依頼に同行不可と来たもんで、これじゃあフィンの鍛錬にならないのだ!!


 フィンにはなるべく沢山の戦闘経験をさせてやりたいし、でも壊し屋だとその手の依頼が来るのか不安だし......


 やっぱり俺から強い奴の所へ乗り込むしかない!!


「――――ふっふっふ......安心なさい......憐れなる異世界人のトウヤよ......私の有難い啓示を聞き入れるのです......」


 隣の女神が慈愛とは程遠い、わっるいニヤケ顔で俺の肩に手を置く。


「さては、お前なんかしたな?」


 この顔はそうだ。そうに違いない。


「その通り! 実は私の女神パワーで――――」


「あぁ、いたいたぁ。探したんですよ? 壊し屋の旦那......」


 壊し屋の入口の前で唐突に声をかけられた。後ろから? 全く気配に気が付かなかった......


「誰だ? 客なら中で話聞くぞ?」


 いや違う。後ろに立つこの男から滲み出るこのオーラは殺気に近い。


 声と同時に殺気をわざと漏らした......そのままいけば気付かれずに俺を殺す事も出来た筈。なんの目的が......


「客? そうかもしれないなぁ......ジブンはまぁ、まぁだ名乗る程の者ではございやせん。壊し屋の旦那。ちょいとジブンと死合ってくんなぁ......」


 目の前の青年は既に武器を構えている......こっちの話を聞く気はなさそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る