第19話 戦いの匂い
両掌にクギを打ち付けられ、十字架に磔にされた男が目を覚ました。
磔にされた男は、背中まで届くような黒髪を後ろで結い、ファッ急の制服を着崩している。傍から見れば不真面目極まりない見た目をしていた。
そんな男を下から見下ろすのは、死んだ魚のような目をした、同じ制服を完璧に着こなす男。ルークだ。
「あ、ふくちょ......オハヨウゴザイマス......」
「よぉ“ライ”......お前今なんでこんな状況か分かってるよな......?」
ライ。彼はファッ急の第一から第五まである部隊長の一人であり、ファッ急の実質ナンバー3である。
そんな男が
こんな異常事態はここにおいては日常茶飯事なのである!!!!
「......えーと、仕事サボって賭場に寝泊まりしつつ臓器売って金作りながら三日三晩賭けを続けた件ですか?」
「よく分かってんじゃねえかライこの野郎!! お前......おまえぇ......」
街の平和を守るべき者が治安悪いランキング堂々のトップ3に入るであろう賭場に入り浸っているという事実にルークは言葉を詰まらせる。
「まーいいじゃあないですか。ジブン、五体満足で帰ってこれた訳ですし」
「一応聞くが、なんの臓器を売ってきたんだ......?」
ルークの目には、ライがとても内蔵が2、3個足りない人間には見えなかった。
「......盲腸と肝臓、あと右目と肺の三分の二を、あー腎臓も売りましたかねぇ――――」
「めちゃくちゃ売ってんじゃねぇか!!!! どんだけ大負けしてんだよギャンブル辞めちまえ!......ってそうじゃなくてよく生きてんなお前!!?」
「頑張りましたぁ」
余りにあっけらかんとしたライの態度で、ルークの怒りは心配に変わった。
「ったく......次は助けてやんねーからな......ホラ、
アルティメットポーション......それは人体の欠損すら完治する文字通り究極の回復薬である。
一つが一国の国家予算程の値段のソレを何故かファストレア緊急警備局は月に一瓶支給されている。
ライが固定され動きにくい手を器用に動かしながら瓶を飲み干すと、身体が緑色に発光した。ポーションが効いている証拠だ。
「ふぁー内蔵が再生する音......生き返った気分だぁ......それで、副長はその傷、治さないんですか?」
ルークはトウヤと戦闘した事を誰にも言っていなかった。
ひとえにそれは「ちょっと恥ずかしかった」からである。
未だに痛む脇腹を擦りながら、ルークは観念したと言わんばかりの表情を見せる。
「俺誰にも言ってないんだが......なんで分かった?」
「副長は知ってるでしょう。ジブン、目が良いんですよ。特に大きなダメージは脇腹ですかぁ......うわ
ルークは犯罪者としか戦わない。今それらしき人物が局にいないという事は逃げられた(実際にはそうでは無いのだが)事を意味していた。
「まぁな。次何か問題を起こすようなら即刻牢にぶち込もうと思ってる」
「じゃージブン、しょっぴかれる前に
掌に刺さった釘を引き抜き、ライは自らの武器を手にする。瞬間、ルークが目に生気を取り戻す程の血の匂いが部屋に充満した。
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