第21話 常識破壊女神と地味にサムライ①

「客? そうかもしれないなぁ......ジブンはまぁ、まぁだ名乗る程の者ではございやせん。壊し屋の旦那。ちょいとジブンと死合ってくんなぁ......」


 俺の目の前にいる男は、「こんな感じでいいんだっけか?」などとボヤきながら頭をかいている。


 この男には見覚えが無い。が、着ている服はルークと同じそれだ。


 つまりこの男も警備局のメンバーって事か......


 プリメーラとフィンは警備局の連中に会った事は無いが、この男の放つ歪な殺気を感じ取ったのか逃亡と戦闘、それぞれの行動をいつでも取れるようにしている。


「お前、ルークの仲間だろ? “死合う”って、俺と戦うって事か?」


「一度に質問しないで欲しいなぁ......ご名答。ジブンは......ライと呼ばれてる......よろしく......あと死合うってのは言葉の通りだ......ジブンと戦ってくれぃ」


「はぁ? 急に現れて何言ってんだてめぇ?」


「嫌......ですかぃ?」


 声のトーン、表情、顔色には一切の変化が無い。だが放っていた殺気がより強く! 濃くなった!! そしてそれが向けられているのは俺じゃなくプリメーラとフィン!


 フィンはまだしもプリメーラまで殺気に当てられて動けないようだ。その証拠に、全身から汗が吹き出し、表情の怖張りが強くなっている。


「待てよ。やんねぇなんて言ってないだろ? 寧ろ、願ったり叶ったりって感じなんだよ。だからその殺気弱めろ」


「良かった......ここで断られてたら旦那以外殺しちまう所でしたぁ......」


 一瞬前まで濁流のように溢れ出ていた殺気が嘘のようにピタリと止まった。


 このライって男! 考え方が危なすぎる!! 


 だがまぁ、ここでサイリスやルークレベルの強者と戦えるのは俺やフィンにとっては好都合というものだ。やれる所までやってやる!!


「そうだなぁ......五分。五分にしましょう。本気で来てくださいねぇ......いつでも不意打ち大歓迎だぁ」


「時間制限なんて役に立たないだろ」


「その心配はいらないでさぁ......これは契約。破れば相応の罰が降りかかりますんでぇ......」


 そう言ってライは準備運動をし始めている。俺からは凄まじく隙だらけに見える。


 お望み通り不意打ち......と思ったが懸念点が二つ。


 まず一つ目にあの気配の消し方や殺気のコントロールから察するにライは相当な手練だ。十中八九対応されるだろう。(まぁ対応されたとしても殴れば良いだけなのだが)


 そして二つ目。俺の全力は周辺を更地にしてしまう事だ!!


 いや、俺的には全くもって構わないのだがこれ以上ルーク及び警備局のお世話になるとこれからの活動に支障が出るかもしれない!!


『大丈夫よ! 今私がアンタ達二人の周辺に女神っぽい結界をはったから! 安心して暴れちゃいなさい!』


 プリメーラの声が脳内に響く。テレパシーってやつか!! 


 これが瞬間移動(燃費が悪い)、千里眼(使えてない)と結界(今使えるの知った)に続く女神っぽい事その4!!......何だこの絶妙なラインナップは!!?


 今はそんな事どうでもいいのだ。目の前のライに集中集中!!


「――なんだぁ......準備運動待ってくれるなんて、旦那は親切ですねぇ」


「強者の余裕ってヤツだよ。先に来いよ」


「じゃあ......お言葉に甘えて――――ッ!!」


 踏み込み!! コイツも近接戦闘タイプか!!?


 半身になって手に持つ武器を巧妙に隠している......速さと相まって間合いが見極め辛い!!


「トウヤ! あの人すっごい長い剣持ってたよ!」


 今度はフィンの声が心の中に響く......ん? 違うな......主に背中から耳にかけて聞こえるぞ?


「しかもその剣ね、ちょっと曲がってたの!」


 俺の背中には、フィンが乗っかっていた。


「おんぶッ!!?!?!? なぜに!!?!?」


「ガキおぶって戦い......言うに事欠いて余所見たぁ......旦那にはがっかりです......」


 だが! フィンのおかげでコイツの武器が分かった!!!!


 その武器は空を裂きながら俺目掛けて振り抜かれる。


「ありゃぁ......ジブン、抜刀術には自信があったんですけど......まさか握って止められるとは」


「テメェの武器は刀か......心底ガッカリだぜライさんよォ!!!!」

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