第75話 レッツゴー冒険者①

 前回までのあらすじっ!


 なんか色々あって、ファストレアの領主様から英雄になるようお願いされたよ!


「いやです」


「まぁ理由も聞かずに結論を出すのは少し早いですよ?」


「理由を言わずに結論を先に出したのはそっちでしょう」


「それもそうですね......では順を追って説明しましょうか」


「なにこの会話......」


 プリメーラが凄い顔でこちらとあちらで視線を行ったり来たりさせている。


 俺だって一回驚いて声が出るくらいには驚いてるよ? でもさ、余りにも“当然”の表情でヴァラスが話を進めようとしてくるから良い感じに冷静になれただけなのよ。


「それでですね......何故こんな話をいきなりしたかと言いますと、つい先日この大陸の冒険者ギルド支部がある国や街の首長達の総会がありまして、私とファストレア支部の支部長が出席してきたんですの」


 あー、つまりヴァラスや支部長(会った事ないけど)が森の主の時や破壊者襲来といった街の危機に出張ってこなかったのはそもそもこの街に居なかったから、という訳か。


「――――そしてその総会である事が決まりましたの」


「ある事......ですか?」


「先ずトウヤさんは異世界人と言う事で従来の冒険者ギルドのシステムからお話しましょうか!」


「中々本題に行かないわね!」


 あかん。プリメーラがツッコミたいけどツッコめない雰囲気に耐えきれず爆発した。


「それで従来の冒険者ギルドのシステムなんですけど――――」


 あ、気にせず進めるんですね。


「今まで魔物の強さというのは魔王城に近付く程強く、危険になって行きました。それもあって魔王城より一番遠い街であるファストレアは駆け出し冒険者の集まる街として栄えて来ました」


「そこまでは知ってます。俺達も弱い魔物が目的でこの街にいるので」


 実際はフィンを強くする為なのだが、まあ嘘は言ってないし良いだろう。


 ヴァラスの表情は少しだけ曇り、話は続く。


「ですが......数ヶ月前より魔物の生態に異変が現れるようになりました――――魔王城からの距離に関わらず危険な魔物が出現するようになったのです。先日“ファストレア大森林”に出現した主......【帝王混蝕粘生体カオスエンペラースライム】もその異変の内の一体と考えて良いでしょう」


「つまり、街や国単位である程度決まっていた冒険者や魔物の強さがアテにならなくなってきた......って事ですか?」


 例えば、今までレベル10までのモンスターしか湧かなかった草原に急にレベル80のモンスターがどこでも湧くようになったって事だろ? そりゃ急いで対応しなきゃ不味いよな。


「本当に話が早くて助かります。そして、ここからが新しい体制のお話です――――我々街の領主と各ギルド支部長は、今まで街単位で管理していた冒険者の熟練度・強さのシステムを本部が一括で管理し、新たに〈等級〉の制度を導入する事にしたのです!」


「へーそりゃ凄いですね」


「今は盛り上がる所ですよ???」


 そうなの?


「なるほど......でも、結局なんの解決にもなってなくないですか?〈等級〉の制度が出来て強さの視覚化が出来るようになっただけで、強い魔物と弱い冒険者が出会ってしまった場合の解決策が見当たらないというか......」


 そう。結局はそこだよね。


 俺とフィンの場合は、もしもの事があっても俺がどうにかしてやれるが、冒険者はそうはいかない。


「その点に関してもある程度は抜かりありません。冒険者に等級があるように、魔物や依頼にもその種類・難易度に合わせて等級を設定します」


「ほうほう」


「そして討伐依頼は、個人なら自分と同じ等級の。パーティならリーダーの等級より一つ上までの依頼のみ受注出来るようにしました。多少穴はあると思いますが、そこはこれから直していけば良いですよね」


 まぁ確かに。等級低めの依頼で急にやばい魔物と出くわした時とか、どうしようもないんだろうがそういう場合もゼロじゃないだろうからな......


「ここまで聞いて色々理解しました......でもちょぉーっとだけ質問してもいいですか?」


「どうぞ?」


「冒険者ギルドの新システムと俺になんの関係があるってんですか!?」


 そう! 俺は冒険者ではない!!!! 


「ですから、冒険者として活動しないにしても、等級の登録はしておいて欲しいのです。なにぶんファストレアこの街には今冒険者が圧倒的に足りていないもので」


 そうだった。この街にいた冒険者は一人を除いて全滅したんだった。


「でもそれは俺と関係ないでしょ!? 変な事に俺を巻き込まないで下さ――――」


「私からの依頼......受けて下さらないんですか?」


 ヴァラスは笑顔だった。


 しかし表情筋がピクリとも動かない......重圧がのしかかるような“重い”笑顔だ。


「受けましゅ......」


 俺は折れてしまったのだった。


 トウヤ、冒険者ギルドへの所属決定ッ!! 

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